その急ぎは、いつまでなのか:田中淳子のあっぱれ上司!(3/3 ページ)
急ぎで依頼したはずの仕事を、部下がいつまでたってもあげてこない。部下がさぼっているのか、あなたが舐められているのか、それとも――
「自律した社員」の「自律」とは何をどうするレベルを期待しているのか、自分の言葉で部下たちが理解できるよう具体的に説明できるだろうか。「人間力がある人」と言うけれど、「人間力とはなにか?」「何をもってして“人間力がある”とみなされるのか」、上司がそこを具体化できていないのに「人間力のある人になってね」などと言われても、部下や後輩にしてみたら「では、どうすればいいのだろう?」と悩んでしまうことだろう。
私たちが使う言葉は、どうしてもあいまいになりやすい。特に会話の始めの方はたいてい抽象的だ。これを語り合うことで徐々に具体化していくことが肝要だ。
抽象的な言葉でやりとりしていることに発信者か受信者のどちらかが気付き、「具体的に言うと、どういうこと?」と突っ込んで考えなければならない。「今の言葉ではあいまい過ぎて相手に伝わらないな」と発信者が気付くか、「それはどういう意味ですか?」と受信者が問う。そうやって双方力を合わせて、言葉を明確に具体的にしていくことが大事である。
部下の発言にもこれは当てはまる。プロジェクトの振り返りを例に考えてみよう。
上司:今回のプロジェクトで学んだことは何かな? 1人ずつ言ってみて
部下A:これだけ大勢が関わるとなると、コミュニケーションが大事だなと思いました
上司:そうだね。コミュニケーションは大事だよね。じゃ、Bさんは何を学んだ?
これでは、「コミュニケーション」が何を指していて、「大事」とはどういうことなのかを各自が勝手に頭に思い描き、それぞれの摺り合わせがなされない。こういう場合は、上司が部下の言うことを掘り下げる必要がある。
部下A:これだけおおぜいが関わるとなると、コミュニケーションが大事だなと思いました
上司:なるほど、コミュニケーションね。コミュニケーションって例えば何を指している? どんなとき、それを思った? どういうコミュニケーションが1番難しかった? 次のプロジェクトではそれをどう克服しようと思っている?
こうやって問いかけていくことによって、部下や後輩に「具体的な言葉」で考えさせることにつながるのである。上司も部下も「具体的」な言葉で考え、「具体的」な言葉で会話する。言葉を抽象的なまま放置しない、分かった気にならないことが大事なのである。
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
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