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「出現する未来」を実現する7つのステップ ――「ダウンローディング」(前編)U理論が導くイノベーションへの道(3/3 ページ)

 思い込みが激しく、その人自身の意見を曲げる余地もなく、久々に会ったとしても何を言い出すのか想定がつく。自分の「枠組」の中で生きている。その人から斬新なアイデアが生まれるだろうか?

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枠組みを超えるということ

 さきほどの宇宙人メールを例にとってみましょう。なぜ、宇宙人メールを読んだ時、すぐさま「何これ?」、「何が言いたいわけ?」という反応になってしまうのでしょうか?それは、「宇宙人と共同作業をすることなんてあるはずがない」という枠組みの中に生きているからと言えます。

 その枠組みを否定するような到底ありえないこと(今回の場合、「宇宙人とカラオケをした」)、その枠組みを超えすぎることに遭遇した時、われわれはその枠組みを「再現」し、「黙殺」、「否定」、時には「思考停止」という手段によって、その枠組みの存続を自動的に図ろうとします。

 逆に、例えば「友人とカラオケをした」といったその枠組みを超えることなく、その範囲内で処理できてしまうような「つまらない」情報であれば、「分かりきったこと」「たいしたことのないこと」として自動的な対応をします。この時にも、その枠組みは「再現」され、その枠組みの範囲内の中で思考の組み立てがなされます。

 「友人とカラオケをした」といった類のメールをもらったとして、「ふーん、そうなの?だから何?」という反応となってもおかしくはありません。これが、「過去の経験によって培われた枠組みを再現している状態」です。それでは、「過去の経験によって培われた枠組みを再現していない状態」とはどんな状態なのでしょうか?それは、その「枠組み」をほどよく覆す情報や状況に遭遇した時の状態を指します。

 先ほどのメールの例でいえば、「有名人とカラオケボックスでばったり会った」という感じでしょうか。「有名人とカラオケボックスで出会うことはない」というのは、過去の枠組みとしてはありえる枠組みですが、同時にそれを覆す情報も十分ありえます。その枠組みを覆す情報に遭遇した時、「えーーー!?!? マジで!? すごい!!」という反応になるのではないでしょうか。

 この時、われわれは一瞬、われを忘れ、目の前の情報、状況に釘づけになります。その状態は、Uプロセスの次の段階「観る(Seeing)」と関係してきますので、詳しい解説は次回に譲りたいと思います。

 余談ですが、小学一年生の息子に、「お父さんの友達から、メールが届いてね。宇宙人とカラオケに行ったんだって!」と言ってみたら、「えーーーー、すごい!!! ほんとに? ほんとに?」と目をキラキラさせながら、言っていました。(もちろん、嘘だよと後でフォローしましたが)

 少し話がそれましたので元に戻して、さらにダウンローディングについて、もう少し詳しくみていきましょう。

 メールの例は極端でしたが、この「ダウンローディング」が出現する未来を実現していく過程の初めに位置するプロセスであり、習慣の動物であるわれわれはほぼこの状態で日常を過ごしていると言っても過言ではないと思います。ダウンローディングであることは、別に悪いわけではなく、われわれは初期状態として、ダウンローディングな状態にあると思って間違いはないでしょう。

 だからこそ、丁寧に「社会的な土壌(ソーシャル・フィールド)」を耕すプロセスが大切なのであり、「行動の源(ソース)」を転換させていくことが鍵となるわけです。

 ダウンローディングな状態である時、われわれの中ではどんなことが起きているのか分かりやすい例を挙げておきますので、自分がその状態に陥っている時、まずは「ああ、今、ダウンローディングに陥っているな」と気付くことから始めてみてください。

ダウンローディングの例

 ・人の話を聞いていて、「ああ、それはそうだよね」、「それは的を外しているな」といった形で、合っているか、間違っているかを判別しながら聞いていたり、相手や自分を否定していたりする。

 ・話を聞いている最中から、次に自分が何を言うかに意識が奪われている。

 ・何かの情報に遭遇しても「ああ、それは分かっている。知っていることだ」と、既に知っていることとして処理をしている。特段、新しい発見や、驚きがない。

 ・相手に向かって、流暢に話をしているものの、以前考えたことがあることばかりで、調子に乗って話すことに伴う多少の興奮があるものの特段、新鮮さがない。

 ・「この話のオチは?」「結論は一体何?」「ああ、これは結局こうなるね」と先を予測しながら聞いている。

 ・いつもの主張や意見を繰り返している。

 ・特定の人、状況、会社といった団体、時には自分自身に対して不満を抱き、自分の中で文句が膨張している。

 ・周囲の空気に合わせて、「いいこと」を言ったり、当たりさわりのない態度をしている。

 これら状況は過去の枠組みから状況を捉えたり、人の話を聞いたり、発言したりしている「ダウンローディング」の典型的な例です。このような状況は、われわれにとってとても慣れ親しんだ、よくある状態であることは、理解できたのではないかと思います。

著者プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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