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クリスマスシーズン、女性たちがやっぱり心待ちにしているあのお酒松浦尚子のワイン&コミュニケーション

ポンパドール夫人のみならず多くの女性たちを虜にしている。確かにグラスを傾け、ゆっくりと味わい楽しむ女性の姿はいつにも増して輝きを放っている。

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 「女性が飲んで、美しくいられるのはシャンパンだけなのです。」

 シャンパンの大変な愛好家であったポンパドール夫人の言葉。学問、芸術の分野にも秀でていた才女で、シャンパンを上流階級に広めたルイ十五世の寵姫です。時代を超え、ポンパドール夫人のみならず多くの女性たちを虜にするお酒がシャンパン。確かにシャンパングラスを傾け、ゆっくりと味わい楽しむ女性の姿はいつにも増して輝きを放つことでしょう。

 一時期、朝シャンという言葉も耳にしましたが、「シャンパン&ブレックファースト」は若さを保つ秘訣の一つになるとの評判もあります。シャンパンに含まれるカリウムが筋肉を強く保ち、疲労回復につながるとのことですが、医学的には本当かどうか分かりません……。ただもちろんナポレオンしかり、歴史に名を残した多くの偉大な人物をも魅了し続けてきたシャンパンは、性別や年齢を問わず特別な存在です。実際に、世界中どこを探してもシャンパンと同じ味わいを持つスパークリングワインを生み出すことはできません。いよいよ12月、飲む機会が圧倒的に増える前に少し紹介しましょう。

 フランス北東部、ブドウ栽培の北限である北緯49〜50度に位置するシャンパーニュ地方がその産地です。シャンパーニュの語源はラテン語のカンパニア(Campania)で、「平原」という意味を持ちます。紀元前にはローマの属州であったため、物資を運ぶ交通の要所としてローマ人がこの地に町を造りました。地下から掘り出した石灰岩で町を建設したため、石を掘った後の長いカーヴは現在もその姿を残しています。

 このカーヴ、シャンパーニュ地方の中心都市ランスやエペルネにあるシャンパンメーカーを訪ねると、夏でも冷房要らずで、冬には一定の温度・湿度を保つ優れた天然の貯蔵庫として利用されています。実際に中に入ってみると、夏でもショールが必要なほどひんやりした12度前後。シャンパンの熟成に最適な温度です。数メートルの高さに整然と積み上げられた想像を超える数のボトルが、ゆっくり時を刻んでいる姿に圧倒されます。

 さて、シャンパンはもともと白ワイン。ワインを語る上でブドウを実らせる樹が何十年も根を張る「土壌」との関係は切っても切れないものになってきます。ところで、これからの特別なシーズン、食事をスタートする前の食前酒として乾杯にもってこいなのが「ブラン・ド・ブラン」(Blanc de Blancs)です。「白の中の白」という意味を持ち、白ブドウのシャルドネだけを使うことで繊細さや豊富な「ミネラル」表現が楽しめる、洗練の一本。

 ピノ・ノワールなど黒ブドウを含む3種のブドウ品種をブレンドしたスタンダードなシャンパンよりも一つ上級のアイテムと言えるでしょう。この特徴の一つ「ミネラル」感は厚い白亜の石灰岩層というシャンパーニュ地方特有の土壌に由来しています。さらにこの土壌は雨量が多い時には水はけがよい一方で、水不足の際にはスポンジのように水を吸って貯め込み、安定した水分の供給を行う実に優れた性質を持ち合わせています。

 また、シャンパンにとって重要な味わいのポイントが、豊かでキレイな酸の存在です。シャンパーニュ地方のブドウの樹は、冷たい北風を受け、冬が厳しい大陸性気候の中で育ちます。ブドウ栽培の北限という極めて冷涼な気候が酸味をもたらすのです。ここでは少しでも多くの日照を確保するため、丘陵の斜面など日当たりが良いところに植えられています。

 白亜の石灰岩は太陽光を反射し、土を温めてブドウがより良く熟成できるよう助ける役割も担っています。世界各地でさまざまなスパークリングワインが造られていますが、多くはその地域の中でもより冷涼なエリアで造られています。これは質の良いスパークリングワインに必要不可欠な酸味を保持することが目的なのです。

 歴史的な地の利、土壌、気候、選び抜かれたブドウ品種など沢山のファクターが相互に影響を与え合って世界に一つの個性を持つお酒が造られています。今年のクリスマス、貴方はどんなシャンパンを楽しみますか? シャンパンの味わいを引き立てる小話は、女性を笑顔にしてさらに美しさを際立たせてくれるでしょう。

著者プロフィール

松浦尚子

(有)サンク・センス 代表取締役社長

ボルドー国立大公認ワインテイスター

神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。


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