松浦尚子のワイン&コミュニケーション
思うに、これが心からワインを楽しむ方法
フランスで5年、日本に帰国してこの秋でまる10年が経とうとしています。この間、ボルドー大学でワインを学び、日仏間で働き、東京で小さな会社を設立してワインスクールやショップ、イベントや講演でワインの魅力と奥深さを広める活動に携わってきました。そんな中で私がモットーとして一貫してきたことがあります。それは、ワインに関して丸暗記したり知識を詰め込むことを推奨しないというものです。
テイスティングコメントにも○×はありません。感性は人それぞれ。もちろんスクールでは先生や他者のコメントに触れてもらい、少しずつ表現力を磨いていきますが、それぞれが学ぶ段階で感じたことを否定する意味はないはずです。知識もワインにとって何が重要なのかという基本の幹を知っていれば、後は枝葉です。幹を理解すれば、自身で考え判断する力が生まれます。
逆に、枝葉ばかりを覚えてもやがて時間とともに忘れてしまいます。日本人は資格好きですが、取得のプロセスが本来のワインが持つ鷹揚とした魅力や楽しみ方を歪曲してしまわないことを願うのみです。
もう一つ、こだわっていることがあります。それは、スクールなどでワインを味わった際に、このワインに合う料理は何だろうと想像し、コメントしてもらうことです。最初のうちはこれが案外難しいものです。なんとなく想像まではできても、いざ言葉に落とし込む作業に一手間が掛かります。
事実、ワインを表現するのに手いっぱいなのに、料理との相性までは……と苦労される方が多いのですが、回数を積んでいくうちにやがて楽しいものへと変わっていきます。逆に、美味しい料理を食べた時にはこの一皿にはこんなワインが合うかも?と想像することも自身の感性を磨くきっかけになると思います。
ワインを飲むようになると、ある週末に少し準備に時間を割いて、家族や気の合う友人や知人を招いて食事するひと時が特別楽しいものになります。一皿ひとさらに合ったワインを考えるのは実に楽しいことですし、実際に相性があったときの喜びもあります。もし可能なら、複数の料理を並べる日本風の食卓ではなく、食前酒にスパークリングワインを、野菜や魚介を使った軽い前菜に白ワインを、メインの肉料理は事前に煮込んでおくかオーブン料理にすれば直前の手間が省けます。
これからのシーズンは少し渋みのあるこなれた赤ワインを用意したいものです。最後に、居間に場所を移してデザートには甘口ワインというコース風のおもてなしはどうでしょうか?ちなみに、フランスではトリになるワインは赤でしたが、ドイツのお宅を訪ねた際には最後の甘口ワインが主役。ご主人が最も自慢そうにワインを披露し、饒舌に語ってくれたことが印象的でした。
実は、わたしが思うにはこうした凝った食事を考えたり、準備するのは男性の方が得意なのではないかと感じます。料理は、レシピさえ忠実に従えば(特にメインを煮込み料理にすれば)実はそうそう大きな失敗もありません。
食べられさえすれば多少の失敗も愛嬌。手作りに勝る料理はありません。フランスでは、朝から家族で市場(マルシェ)へ買い出しに出掛け、日中を(ワインを片手に)料理をしながら気ままに過ごし、夕方にホームパーティーでワイワイ楽しむ男性が多くいました。
ワインと料理の相性なんて分からない、考えるのが面倒、と言う方もいるかもしれません。でもこれだけはとにかく経験です。ワインについては普段から意識して味わい、料理と合わせてみてください。次は、次はと繰り返しているうちに自分の感覚で分かってくることがあります。
これは! と人に紹介したくなる出会いもあるでしょう。仕事をリタイアした後にも生きる余暇の過ごし方であり、野菜やキノコ、果物といった自然が育む食材に触れているだけでもリラックスできる要素を持ち合わせています。思うに、これが本当に心からワインを楽しむ方法ではないかと感じています
著者プロフィール
松浦尚子
(有)サンク・センス 代表取締役社長
ボルドー国立大公認ワインテイスター
神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。
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