「大企業は一朝一夕には変わらない」 NTTデータ冨安寛氏がAI時代に重視する原理原則(1/2 ページ)
AIの進化によって、システム開発のあり方は大きく変わろうとしている。一方、大企業には既存の事業や受注、人材があり、短期間ですべてを新しい形に切り替えることはできない。では、大企業は新しい技術をどう事業に生かし、組織や人材をどう変えていけばいいのか。
NTTデータグループで取締役副社長執行役員を務め、CTO、CIO、CISO、CAIOを担う冨安寛氏に、社内の研究組織から金融分野での開発現場、社内の開発を支える技術部門を経て、全社の技術戦略を担うまでのキャリアを振り返ってもらった。あわせて、そうした経験を踏まえたAI時代の人材育成や、大企業で変革を進める際の考え方を聞いた。
冨安 寛(TOMIYASU Hiroshi)
――株式会社NTTデータグループ 取締役副社長執行役員 CTO CIO CISO CAIO、株式会社NTTデータ 取締役副社長執行役員 CTO
1990年にNTTデータ通信へ入社。社内の研究組織に配属されて、ソフトウェアの研究に邁進した後、金融分野のシステムエンジニアへ。PMとして活躍した後、技術部門へ移り、社内のソフトウェア開発プロセスの改善や標準化を牽引する。ソフトウェア工学組織やインフラ事業部の責任者などを経て、現在はNTTデータグループの取締役副社長執行役員、CTO、CIO、CISO、CAIOを務めるほか、NTTデータの取締役副社長執行役員、CTOを兼任する。
研究組織と事業部で異なった「技術」の意味
――これまでの経歴を教えてください。
冨安氏: 1990年にNTTデータ通信へ入社し、最初は社内の研究組織に入りました。13年ほどたった後、組織再編を機に、金融分野へ異動しました。そこから3、4年ほど、問題プロジェクトに支援役として入り、PMを務めるケースが続きました。これまでさまざまなプロジェクトに携わってきましたが、プロジェクトをいくつこなしたのかは……、正確に数えられないくらいですね。
その後は技術部隊に戻り、社内のソフトウェア開発やシステム開発を改善する仕事に携わりました。ソフトウェア工学の組織を経て、インフラ事業部の事業部長、その後はインフラとソフトウェア工学を担う本部の責任者を務め、今に至ります。
――技術部隊では、社内のソフトウェア開発をどのように変えていったのでしょうか。
冨安氏: 当時はJavaによるWebシステム開発が広がり始めていました。それまでの開発プロセスでは十分に対応できなかったので、新しい開発のやり方を整えました。また、当時はJavaのフレームワークが数多く登場していたので、その中からNTTデータで標準的に使うものも決めました。
プロセスとフレームワークが決まれば、定型的な作業を自動化できます。そこで、コードや環境定義書などを自動生成するツールも作りました。
静的なルールに従って生成するので、コードを書く段階でのヒューマンエラーは防げます。ただし、コードの元になる仕様を人間が誤って理解したまま入力してしまうと、話は別です。その場合は、誤った仕様に沿ってコードが生成されます。自動化しても、入力する内容そのものの誤りまでは防げません。
――研究組織と事業部では、「技術」はどのように捉えられていましたか。
冨安氏: まったく違いました。研究組織では、優れたアルゴリズムを考え、その正しさを数学的に証明するといった、サイエンスとしての水準の高さが技術力でした。
一方、事業部では、OSやミドルウェアを使いこなすことや、サーバやストレージを組み合わせてシステム全体のアーキテクチャを設計することが技術力として評価されます。さらに経営の立場になると、技術は事業のために使うものとして捉えられます。
その違いは、問題プロジェクトに入ったときにも実感しました。「研究組織から来たのだから技術力が高いんだろう」と言われ、私も研究組織でいう技術力のことだと思っていました。ところが現場では、アルゴリズムの知識そのものよりも、別の技術力が求められていました。同じ「技術」という言葉でも、立場によって意味が違うのです。
CTO、CIO、CISO、CAIOを1人で担うことで、むしろガバナンスを効かせる
――現在はCTO、CIO、CISO、CAIOなど複数の役割を担っています。この体制をどのように捉えていますか。
冨安氏: 他社の幹部の方からは、「1人で責任者をいくつも兼任していると、ガバナンスが効かないのではないか」と聞かれることもあります。もちろんそういった考え方もありますが、私は全部を統合的に検討できるメリットが大きいと感じています。
例えばCISOとCIOでは、それぞれの役割から重視する観点が異なることがあります。サイバーセキュリティの水準をどこまで上げるのか。社内システムの利便性をどこまで追求するのか。両方の観点を踏まえ、会社の事業全体を見ながら判断できるのは、複数の役割を担っているからこその利点です。むしろ、全体を見て判断することでガバナンスを効かせやすい面もあると考えています。
――他の経営陣とは、どのような議論をしていますか。
冨安氏: 風通しが良いとよく言われますが、遠慮なく頻繁に議論しています。技術について意見を求められることも多く、「この技術領域への投資を強化したい」といった話もします。
重要なテーマの1つが、今後の技術の進展を見ながら、事業と人材のポートフォリオをどう設計するかです。「AI人材を何人育てる」と決めるだけでは十分ではありません。
AI分野へ人材をどこまで振り向けるのか。一方で、既存事業には今後どれだけの人材が必要なのか。さらに、新卒や経験者をどれくらい採用し、技術部門で育てられるのか。人事や事業部門も交えて、全体で考える必要があります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
チェンジリーダーの覚悟
AIが経営アジェンダの最前線に躍り出た今、変革を担うリーダーへの期待と負荷はかつてなく高まっている。経営層と現場の間に立つ"翻訳者"として部門間の温度差を埋め、時にROIでは測れない価値を共有しながら、組織全体を巻き込んで変革を仕掛け続ける――。本連載では、CAIOやCTOをはじめ変革の最前線に立つリーダーに、そのバックグラウンドとともに、判断の背景や葛藤、「どこで諦め、どこで粘ったか」を率直に語ってもらう。技術論でも成功譚でもない、変革者の「覚悟の中身」に迫る。
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「世界のベストバー50 2026」に東京のバー2軒がランクイン
-
2
眠れない日こそ活動量を増やそう。認知行動療法で自分を変える、一生モノの思考術とは?
-
3
TDKがCEATEC出展 映像を網膜に直接投影するミラー、スマートグラスに鮮明な映像
-
4
東京のレストラン7軒がメキシコ政府から「本格的なメキシコ料理」として認定
-
5
「50 TOP PIZZA WORLD 2026」に東京のピッツェリア2軒がランクイン
-
6
「漏洩連絡が来た…」自分の個人情報が流出したら? 二次被害を防ぐ、対処法と日頃の備え
-
7
AIの台頭でウエブサイトのアクセス向上策はSEOからGEOにシフト 対応急務に
-
8
第2回:DXの教訓、AXの現実
-
9
AIエージェントとは何か ― 従来の常識が通じない理由
-
10
鷹は、自らの爪・羽根・くちばしを折ることで、生まれ変わる
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー