「大企業は一朝一夕には変わらない」 NTTデータ冨安寛氏がAI時代に重視する原理原則(2/2 ページ)
AI時代は人間の「原理原則」の理解が重要になる
――現在、最も力を入れているテーマは何ですか。
冨安氏: AIによって、これまでの事業ポートフォリオをどう変えるかです。
日本では、お客さまからRFP(提案依頼書)を受け取り、提案書を作り、数年単位のシステム開発を一括で受注する仕事が多くあります。ですが、この形もAIによって大きく変わっていくと見ています。AIを活用することで開発の生産性が高まり、従来とは異なる人員構成や開発の進め方が可能になります。
一方で当社では、すでにお客さまから受注し、開発を進めている案件も数多くあります。こちらは、お客さまとの契約や計画に基づき、現段階でのベストプラクティスで着実に開発を遂行することが求められます。ですから、既存の案件を一気に新しい開発のやり方へ切り替えることはできません。こうした案件も進めながら、AIを活用した新しい開発のあり方へ段階的に移行していく必要があります。特に人材をどう移行させるのかは、大きな課題です。
――AIを巡って、事業面では何を見ていますか。
冨安氏: AIでは、モデルそのものだけでなく、データセンターや電力、サーバといったインフラも大きなビジネスになっています。AIの利用需要が増える一方で、データセンターを建てられる土地や利用できる電力には限りがあります。どこに拠点を構え、必要なインフラをどう確保するかは、技術の選択とは別の事業判断です。
もう1つ、AIベンダーとの提携や調達条件の交渉もあります。これはAIに限った話ではありませんが、NTTデータグループは世界でトップクラスのITサービス企業なので、複数のベンダーから提携の話をいただくことがあります。パートナーの関係性はとても大切にしていますが、同じようなサービスを各社から大量に調達するわけにはいきません。そこで、1社に決め打ちするのではなく、複数の選択肢を持ちながら、それぞれとどのような条件で提携するかを考えています。
NTTデータグループには世界中に多くの社員がいるので、社内で利用する分だけでもかなりのボリュームになります。一方で、それらをお客さまへ提供する立場でもあります。社内利用分とお客さま向けの提供分を合わせて取引規模を考え、価格などの条件を交渉することも私の仕事です。
――AIの活用が進む中で、人材についてどのような課題を感じていますか。
冨安氏: いろいろ試してみて分かったのは、AIが非常に賢いからこそ、人間の役割をどこに置くかが重要だということです。1周回って、人間が原理原則を理解していないとまずいと思うようになりました。
例えばソフトウェア開発では、若手技術者が、なぜこのテストをするのか、なぜこのコーディング規約があるのかを十分に理解しないまま、作業としてこなしていることがあります。その作業をAIが担うようになると、人間にはAIの出力が正しいかどうかを最後に判断する役割が残ります。原理原則を理解していなければ、その判断はできません。
さらに難しいのは、そのチェックができる人をどう育てるかです。AIが面倒な作業をやってくれるのはいいのですが、その作業を経験する機会が減れば、若手はどうやって判断できる人になれるのか。米国の子会社の人たちと話していても、AIによって若手が従来担ってきた業務の一部が変化する一方、AIの出力を適切にチェックできるベテランの需要が高まっていると聞きます。
今の汎用的なAIは、まだ人間を100%置き換えられるわけではなく、お客さまごとの事情に完全に対応できるわけでもありません。その部分を人が補う必要があります。若手にその経験を積める機会をどう作っていくのかは、今の大きな課題です。
古いやり方を否定せず、段階的にポートフォリオを移行
――大企業で新しいやり方を広げる際、どのように考えていますか。
冨安氏: 大企業は一朝一夕に変えられるものではありません。むしろ、一気に全部を変えようとするのは危険だと思っています。私は「革命的に変える」というやり方にはあまり賛成ではありません。
当社のような企業では、新しい事業ポートフォリオへ移行していく間も、メインフレームの運用など従来の案件があり、こうした既存の事業も引き続き重要です。古いからといって、それを一律に否定して切り捨てるべきではありません。
以前、社内のソフトウェア開発プロセスを見直し、Javaのフレームワークや自動化の仕組みを標準化したときも、最初から全社へ広がったわけではありません。少数のプロジェクトから始まり、広く使われるようになるまで5年、10年とかかりました。その間も、従来の仕事は残っていました。既存の仕事を続けながら、事業全体を新しいポートフォリオへ軟着陸させることが必要なのです。
――以前に標準化した開発プロセスやJavaのフレームワークは、どのように社内へ広げたのでしょうか。
冨安氏: 会社として方針を決めるのであれば、組織のKPIに入れます。ただ、上から活用を促すだけではうまくいきません。翌年に予定されているプロジェクトを一つずつ見て、どこなら新しい仕組みを使えるかを確認していきます。最初は5プロジェクトからスタートしました。
同時に用意したのが、導入を支援する部隊です。当初は少人数でしたが、プロジェクトとともに拡大し、インフラとソフトウェアを合わせると、1000人ほどの規模でした。最終的には、協力会社の方々や品質保証の担当者も加わり、プロジェクトを支援しました。さらに、新入社員の教育プログラムにも組み込みました。5年も経つと、こうした新しい開発のやり方を使うことが、社員にとって普通になっていったんです。
人は慣れたものを使い続けたいものです。新しいことをやってもらうには、それなりの支援と工夫が必要です。
お客さまと世界を見ることで、技術を事業へとつなぐ
――今後、取り組みたいことを教えてください。
冨安氏: 大きく2つあります。1つは、NTTデータが日本でやってきた技術支援の仕組みを、グローバルでもどう作るかです。
これまでは、新しい技術や開発方法を広げるときに、専門の支援部隊を置いてきました。新しい技術は、活用を促すだけではなかなか浸透しません。現場で活用できるよう支援する仕組みが必要だからです。
一方、日本と海外ではジョブディスクリプションや、それに基づく給与制度が違います。日本でのやり方をそのまま持ち込むことはできないので、制度の違いも踏まえて、技術を浸透させる仕組みを作りたいと思っています。
――制度・慣習・文化に合わせて整備するのは大きなチャレンジですね。もう1つは何でしょうか。
冨安氏: 研究と事業の間をつなぐ仕組みを作ることです。研究組織で生まれた技術は、どんなに優れたものだとしても、多くの場合、そのまま事業に適用できるわけではありません。研究成果を事業で活用していくためには、技術に合わせて支援や活用の仕組みを整える必要があります。
例えば、既に製品やサービスとして提供されているクラウドサービスであれば、比較的そのまま事業に導入できます。一方、研究組織でクラウドサービスを高速に動作させる独自技術が生まれたとしても、それを実際のサービスやビジネスへつなげるには、さまざまな準備が必要でしょう。
私はこれを、研究と事業の間に「技術の通り道」を作ることだと考えています。NTTの研究所にはトップクラスの技術者が在籍し、優れた技術を多数保有しています。NTTグループとして、こうした研究成果をさらに事業へ活用していく余地があると考えています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
冨安氏: 技術を新しい事業にしたいのであれば、技術そのものだけを見ていては足りません。お客さまが何を求めているのか、競合が何をしているのか、世界で何が起きているのかまで見る必要があります。
技術者は、自分たちが持っている技術から考えがちです。でも、その技術を使うかどうかを決めるのはお客さまだということを改めて認識してほしいのです。
NTTデータグループの北米のイノベーション拠点では、日本側とは異なる意見が出ることもあります。日本側からすると「なぜそう考えるのだろう」と感じることもありますが、それは米国のお客さまを見ながら動いているからなんですよね。むしろ私たちが現地のお客さまについて学ぶ貴重な機会をもらっているわけです。
日本の技術者にもそういった視点が必要です。技術者であっても、技術だけにとらわれず、若いうちから事業やお客さま、世界へ目を向けてほしいと思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
チェンジリーダーの覚悟
AIが経営アジェンダの最前線に躍り出た今、変革を担うリーダーへの期待と負荷はかつてなく高まっている。経営層と現場の間に立つ"翻訳者"として部門間の温度差を埋め、時にROIでは測れない価値を共有しながら、組織全体を巻き込んで変革を仕掛け続ける――。本連載では、CAIOやCTOをはじめ変革の最前線に立つリーダーに、そのバックグラウンドとともに、判断の背景や葛藤、「どこで諦め、どこで粘ったか」を率直に語ってもらう。技術論でも成功譚でもない、変革者の「覚悟の中身」に迫る。
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「世界のベストバー50 2026」に東京のバー2軒がランクイン
-
2
眠れない日こそ活動量を増やそう。認知行動療法で自分を変える、一生モノの思考術とは?
-
3
「50 TOP PIZZA WORLD 2026」に東京のピッツェリア2軒がランクイン
-
4
TDKがCEATEC出展 映像を網膜に直接投影するミラー、スマートグラスに鮮明な映像
-
5
東京のレストラン7軒がメキシコ政府から「本格的なメキシコ料理」として認定
-
6
AIエージェントとは何か ― 従来の常識が通じない理由
-
7
第2回:DXの教訓、AXの現実
-
8
AIの台頭でウエブサイトのアクセス向上策はSEOからGEOにシフト 対応急務に
-
9
「漏洩連絡が来た…」自分の個人情報が流出したら? 二次被害を防ぐ、対処法と日頃の備え
-
10
東京、神保町ベストカレー3選
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー