「出現する未来」を実現する7つのステップ――プレゼンシング:Presensing(後編):U理論が導くイノベーションへの道(2/2 ページ)
自分の考えが否定されると傷ついた体験が残るが、否定を避けていては現状を越えられず限界が生じる。
そして、特筆すべき事としては、山口さんはもともとオール・ジャパンに選ばれるほどの選手だったということを鑑みると、おそらく人間的な魅力もあり、それまでも人を率いていたはずです。しかし、それまでの「古い自己」のままでは、伏見工業ラグビー部の部員達を率いることはできなかった。すなわち、そのリーダーシップのレベルでは、通用しなかったということを意味します。
山口さんが自分の「古い自己」を手放し「新しい自己」を迎え入れたからこそ、リーダーとしてのレベルが次の次元に移行し、荒れた部員たちをも率いることができるリーダーとして生まれ変わったのではないかと思います。
山口さんは、NHK「プロジェクトX」の中でこう語っています。「あの小畑(山口さんに最も抵抗していた最初に泣き崩れた部員)の“悔しいっ!”と泣き叫んだあの声は、伏見のラグビーの産声だと感じました。今でもまだ耳の奥に残っているし、あの時のことを思うと、2人向こうにいた小畑の姿がいつもそこに蘇るんです。」
過去の延長線にはなかった伏見工業ラグビー部の姿は、成長という言葉では表現しきれない、まさに「生まれ変わり」そのものだったのではないでしょうか。そして、部員達だけでなく、山口さん自身もリーダーとして生まれ変わったのではないでしょうか。オットー博士の著書『U理論〜過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』の中で、彼はこう言及しています。
「leadやleadershipの語源であるインド・ヨーロッパ語のleithは“出発する”“出発点(敷居)を超える”または“死ぬ”という意味だ。時に、何かを手放すということは“死ぬ”ように感じることもある。」
「勇気は“死ぬ”ことを望むことから生まれる。あえて虚空に一歩を踏み出して、初めて姿を現す未知の領域へと進もうとすること。それがリーダーシップの本質だ」
慣れ親しんだ領域から一歩踏み出すことは、誰にとっても居心地の悪さを伴うものであり、時には「こんなことをやったら自分はどうにかなってしまうんじゃないだろうか?」「死んじゃうんじゃないか?」と思う位の気持ちが湧きあがってきます。
しかし、その先が見えない虚空に一歩踏み出すからこそ、出現する未来がある。その古くて新しい観点こそ、閉塞感に喘ぐ日本や、解決困難なさまざまな問題を抱える世界にとっての一筋の光明となることを願ってやみません。
次回からは、「その出現する未来を具現化、実体化するプロセス」に入っていきます。
著者プロフィール
中土井 僚
オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。
社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。
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