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新興国市場での成功の鍵――「FRUGAL」製品の可能性と落とし穴視点(3/3 ページ)

先進国を凌駕しうる非常に大きなポテンシャルを持つ新興国において、いかにして成功するか。新興国進出において、日本企業が陥りやすい3つの落とし穴について考えてみる。

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Roland Berger
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落し穴(3)品質レベルを下げられない

 高い品質へのこだわりは、日本製品の強みであることは間違いない。

 この品質へのこだわりのため、新興国市場に併せた品質へとレベルを下げることに、大きな抵抗がある日本企業は多いだろう。新興国で競争力のある価を実現すべく、品質レベルを調整しようにも、開発部門や優秀なエンジニアからの反対で実現できずにいる企業はほんとうに多い。

 繰り返すが、品質が日本企業の強みであることは間違いない。ただ、高い品質を維持するが故に、現地で受け入れ難い価格となってしまっては成功は難しい。ニーズに合った品質のレベルを創りだすこと、そして品質の出し方や出す箇所のメリハリをつけることが必要だ。

ホンダと日野自動車

 ベトナムでは、1999年に中国製二輪車が従来価格の3分の1〜4分の1の価格で市場に投入され、ホンダの二輪車はシェアを大きく奪われた。もともと20%あったのものが、7%まで下がったのだ。

 そこでホンダは、設計基準を変更することで、タブーとされていた、低価格部品の採用に踏み切った。

 基準を下げることは、安全性や耐久性を損ない、会社ブランド価値を毀損する懸念があるということで社内の多くが反対した。エンジニアもわざわざ安全性を下げることに積極的になれないなど、いくつもの高いハードルがあった。

 最終的には社長のトップダウンで基準改定を決定し、大幅な低価格化を実現し、ベトナム二輪車市場での大きなシェア獲得を実現した。

 道路事情が悪いインドネシア。

 これを重視した日野自動車は、重要な部品(例:トランスミッション、シャーシフレーム、エンジンフィルター、ピストン、ピストンリングなど)にはより高品質な部品を開発。一方で、それ以外の部品の大部分を現地調達化した。

 このことにより、品質にメリハリをつけ、原価を抑えることで、高品質・低価格を実現し、先行するローカル企業や三菱自動車を猛追、シェア拡大に成功した。

5.新興国へ進出することのメリット

 「フルーガル」製品は、先進国における新しいマーケットを切り開く可能性をも有している。

 最後にこの点について述べておきたい。さきほどとりあげたGE社の「小型の超音波診断装置」は、先進国においても、緊急医療分野や遠隔地での事故現場、麻酔投与時の簡単な診断など、これまで取り残されていた新たな市場を開拓。 世界中での小型の超音波診断装置の売上は、2002年から08年の間に400万ドルから約3億ドルへと急増、2012年時点では約5億ドル規模(市場全体は約10億ドル)まで拡大している。

 インドの巨大企業であるマヒンドラ・アンド・マヒンドラは、インドで中心製品である小型の農業機械(トラクター)で進出した。

 趣味で農業を行う人や小規模な造園家、小規模な建築業者向けなどのニッチな市場をターゲットにしたのだ。大規模農業用の大型機シリーズを中心に据えていた既存メーカーが、ターゲットから漏らしていた市場だったのだ。

 インド市場で販売されていた、小さくて、製品は丈夫、信頼性が高く、手ごろな価格の製品群。そして、既存の大企業とは異なり、小規模ディーラー、特に家族経営の事業者と堅密な関係を築いていった。

 ジャスト・イン・タイムによるディーラーの在庫負担を減らし、顧客との直接的なふれあいや園芸奨学金などの特別なインセンティブを提供するといった、顧客との直接コミュニケーションを通じたニーズ把握(ハイタッチ戦略)により大きな成果を上げた。

 最終的にはマヒンドラ・アンド・マヒンドラは世界一のトラクターメーカーへと成長した。

 つまり、「フルーガル」に取り組むことは、新興国マーケットの獲得だけではなく先進国における新しいマーケット発見の機会にもなりうるのだ。

 これは、新興国のローカル企業からの挑戦に、遠からず直面するという可能性も、かなり高いということを意味する。日本国内での安定だけに専念することは、大きなリスクをはらんでいるということを申し上げたい。

 注1) 携帯普及率100%超の新興国:モンゴル、ベトナム、エジプト、南アフリカ共和国、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、グアテマラ、チリ、ブラジル

 注2) Facebookの利用者数:1位インド:約6,300万人、2位インドネシア:4,700万人、3位フィリピン:3,000万人

著者プロフィール

大野 隆司(Ryuji Ono)

ローランド・ベルガー パートナー

早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。製造業、流通業、システム業界を中心とした内外トップ企業において、新規事業創出、サプライチェーンやマーケティングをはじめとした幅広い領域のオペレーション戦略、IT戦略、BPR、PMOなど数多くのプロジェクトをてがける。


著者プロフィール

鶴見 雅弘(Masahiro Tsurumi)

ローランド・ベルガー シニアコンサルタント

東京大学工学系研究科修了後、日本IBM、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。金融、製造業、IT・通信業、アパレル、官公庁を中心に、新規事業立案や新興国参入戦略、オペレーション設計、及び大規模PMOのプロジェクト経験を持つ。東京オフィスにおいては、オペレーション・ITを中心としたInfoComグループ及び金融グループに所属。


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