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グローバル化にも必須のIT、そのカギを握るのは「人」だ「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

エネルギー産業を取り巻く国内ビジネス環境に大きな変化の波が訪れている。自由化やグローバル化とパラダイムシフトが起こる中、大阪ガスにとってのIT部門のあり方とは。

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グローバル化に必要なのは、IT、語学力、ファイナンスの知識

 ――人とのつながりを核として、常に時代の転換期に事業に携わってきたようだ。


大阪ガスの綾部氏(左)、ガートナーの重富氏

 入社直後からオージス総研に出向し、当時はSE60万人不足説が叫ばれていた。その後、登場したインターネットの破壊力は言うまでもない。多感な時期に、驚異的な成長産業となったITを業務とできたことは思わぬ幸運であるし、並行して留学や出張と海外経験も得た。その後も、ロンドン事務所、投資子会社、投資評価部など、ガス会社にいても新しい事業分野に関わってきた。

 23年前に留学をするよう推してくれたのも当時の上司マネジャーだし、10年前に赴任を勧めてくれたのも当時の部長であった。個人的にも家族を含め人生が大きく変わった恩師たちだと思っている。節目、節目でチャンスがあれば必ず人は導いてくれるものだ。

 ――今後の事業展開スピードについていくには、ITもデューディリジェンスは必須

 ITデューディリジェンスは、部下に学ばせたいと思っている分野だ。規制緩和の進んだ金融・通信・石油など、どの業界でも合従連衡は普通に起こっている。3.11以降、エネルギー分野も大きな転換期にあり、他業界で起こったことは、今後数年で一気に加速するだろう。国内外のM&A時、ややもするとITデューディリジェンスは後回しになりがちである。しかし、企業活動とITは切っても切り離せない関係である以上、あとでビックリしないことである。事前にインフラやビジネスアプリの価値精査、リスクの洗い出し、各プラスマイナス要素の金額換算とキャッシュフローへの織り込みが必要である。また、買収後は「Day1」からしっかりグリップできるようアドミン能力も欠かせない。システムの差異や運用管理不全が事業の足枷になってはいけないし、統合効果も求められる。

 ――今後は社員のマインドセットが必要になってくる。

 その通りだ。大阪ガスの現社長尾崎氏は、ゲームチェンジャーを目指す、ルールを変える人になっていこうというメッセージを社内に発信している。

 先にも述べたが、エネルギーを生業とする以上、人口や産業の成長している市場で商売することであり、ボーダーレス化は避けては通れない道だ。相手が国内とは限らず、むしろ米国、アジアなどが多くなるであろう。

 先日も、バンコク事務所立ち上げの際、IT環境整備のために情報通信部のメンバーを2回行かせた。海外ビジネスを肌感覚で知っている人員を育てる必要があり、予算の苦しい中でも、あれこれ施策を講じている。上海への数週間のトレーニー派遣、米国への1ヶ月出張、海外出張者数の1桁増、毎週の英語課外授業、MBA留学など、あの手この手である。今後も多くのIT技術は米国から来るし、オフショアやBPOといった作業はアジア移管が加速する。そこで感じるのは、ITスタッフにこそ語学は重要な資質ということだ。

どこまでユーザーに近づけるかが、ITにおける差別化のカギ

 ――綾部さん自身が、時代の節目、節目を経験し苦労してきたことが、ビジネスへの姿勢に影響しているように思う。

 昔の上司に言われた言葉がある。「いい鍋があって、上等な野菜がある。でもシェフがいない。鍋や野菜は他の人が作ればいい。最上の料理を作るシェフを育てていくのが情報通信部の仕事だ」、と。

 特に昨今のITは差別化が難しい分野だ。例えば、スマートホンやパッケージソフトなど、使える素材はどこの会社も共通で、差別化のしようがない。

 今、話題になっているBIについても全く同じ考えだ。データ活用はビジネスに役立たないと何の意味もない。超高速データベースや大量データがあっても、よい鍋と多くの食材があるにすぎない。弊部ビジネスアナリシスセンター(所長:河本)が評価されているのも、フォワード型分析としてユーザーに刺さり込んだ姿勢が機能している好例だからである。また、大学とデータ分析教材を開発し、大量の一般ユーザーに講習会を実施している。結局は、非常に泥臭いことが実力を鍛えることそのものだと思う。

 差別化の難しい時代、最後の優劣の差は、ユーザーに使ってもらうために、どこまでビジネスに踏み込み、人に寄り添えるかという点に現れるのではないかと思っている。

対談を終えて

 綾部氏との対談を通じて「セレンディピティ」という言葉を思いおこした。日本語で、予期せぬ偶然とか、偶然による幸福と言われる言葉だ。お話を聞いて、人と人のつながりによる"偶然"や"人脈"を大切にし、これからの人材にもそれを期待しているのだと想像する。

 綾部氏は「節目、節目でチャンスがあれば必ず人は導いてくれる」と述べられている。しかしこの言葉は謙遜であり、セレンディピティとは「チャンスは準備している人の元に訪れる」という意味を持つと言った人がいるが、綾部氏もその意見にきっと賛成してくれると私は考えている。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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