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プレイングマネジャーが身につけるべき仕事の減らし方新時代のプレイングマネジャー育成法(1/2 ページ)

忙しいは自慢にならない。優先順位ではなく劣後順位を決め「取り組まない仕事」を決めるのがマネジャーの仕事である。そのための6つの方法とは。

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忙しいことが、ある意味誇りだと思っている現状

 あるメディア関連企業の40代のマネジャーの人たちに、育成プログラムの中で現状の仕事を洗い出してもらい、(1)重要かつ緊急(2)重要であるが緊急ではない(3)重要でないが緊急(4)重要でも緊急でもないにその仕事を分類してもらった。結果は、全員(1)が一番多いと発言し、その後は忙しさ自慢の発言が続いた。しかし、議論を続ける中で、ある人が「(1)が多いというのは、恥ずかしいことではないか。重要な仕事を緊急になるまでに手を打っていなかったということだから」と言った時から場の雰囲気が変わった。

 一人ひとりが気づいたのである。受け身で何でも対応するのではなく、主体的に「(1)重要かつ緊急な」仕事を増やさないように先手を打つことが、マネジャーとして大事だということを。

ビジョンを明確化することで、「取り組まない仕事」を決める

 弊社では「自動車販売店の店長が、値引きの確認業務を含めたくさんの仕事に追われている中で、どのように状況を打破するか」というケーススタディーを提供することがよくある。実施するとホワイトボードいっぱいに、たくさんの解決策を書いただけで終わる場合もよく見られる。

 一方、現場で忙しいながらも、組織を引っ張っているマネジャーは、例えば「高い付加価値を提供できる店舗を目指し、店舗全体で値引き自体をなくし、値引き交渉の時間を削減する。一方でその時間を付加価値向上のための教育とブランド向上に注ぐ」「自律的な社員であふれた組織を目指し、値引き権限を部下にすべて渡し、店長への確認プロセスをなくす。一方で値引きルールの明確化と教育を徹底する」のように答える。

 すなわち、目指すべきビジョンを明確にすることで「やらないこと」を決め、そして「改めてやること」を明らかにしているのだ。

 P・F・ドラッカー氏が「経営者の条件」の中で「本当に行うべきことは優先順位の決定ではない。優先順位の決定は比較的容易である。集中できる者があまりに少ないのは、劣後順位の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定とその決定の順守が至難だからである」と言っている。

 優先順位だけだと、結局何でも対応することになる。だから劣後順位なのだ。自分がマネジメントをする組織をどうしていきたいのかという、意志となるビジョンを描く。そして、そのビジョンをもとに「取り組まない仕事」を決断(決めて断つ)することが大事なのだ。

広い視野と一歩踏み出す勇気と覚悟が、自部署の仕事内容を激変させる

 ただ「取り組まない仕事」を決めるだけで、すべてがうまくいくわけでもない。では、どのように「取り組まない仕事」を見つけ、推進していくのか。まずはひとつの例を見てみたい。

 ある通信系会社のマネジャーが、自部署の問題について熱く議論をしていたことがあった。「自分たちの上(上層部)の問題は何か、上に対して働きかけて変えていくべきことはないか」と問うと、急にテンションが下がり、「特に自分から働きかけるような問題はない」という意見すら出た。自部署内のことならば真剣に考えるのだが、上や横(他部署)に影響を及ぼすとなると途端にブレーキがかかってしまう。本来的には、上や横に働きかけて状況を打破することが、プレイングマネジャーとして求められることなのに。

 一方で、そのマネジャーの人たちに、(聞き手である)他部署マネジャーに何かお願いするためのプレゼンテーション機会を育成プログラムの中で設けてみた。すると、業務の連携がある他部署マネジャーに対して「メンバーも含めて業務会議を行い、実はやらなくてもよい業務や、互いに効率的になる方法を考えるミーティングをしよう」と訴えかける。そして、双方が合意し、実行に移し始めたのだ。

 「取り組まない仕事」を見つけ、推進していくためには、何が大事なのか。それは、この例でいう「プレゼンテーション機会」を与えられるのではなく、自ら作り出せるかどうかなのだ。その機会を作りだすためには、プレイングマネジャーは以下2つを持つ必要がある。ひとつは広い視野を持つことである。自部署だけでなく、今だけでなく、常に広い範囲を意識しているかどうか。もうひとつは、最初少し時間を割くとしても、自らが周りに働きかけたことにより、結果的に自部署も周りの部署も楽になるという状態を作り出すことである。そういった一歩踏み出す勇気と覚悟を持てるかどうか。

 「広い視野」と「一歩踏み出す勇気と覚悟」が自部署の仕事内容を激変させるのである。

 このように「取り組まない仕事」を決めて、推進していくことはエネルギーのいることだ。しかし、「何でもやる」はというのは、マネジャーの役割として「何もやらない」と同じなのである。そのようなマネジャーの下では、本人もメンバーも疲弊していくばかりだろう。

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