プレイングマネジャー必見! 部下が育つ「成長を支援し合う」風土を作る:新時代のプレイングマネジャー育成法(2/2 ページ)
周囲のメンバーがかかわり合うことが育成の連鎖に繋がる。成長を支援し合う組織作りのために意識するべき3つのポイント。
同じ時間をかけるならば効果を高めたい。部下と接する際の押さえるべきポイント
互いに成長を支援し合う組織を作ることは重要なことである。その上で、自分が部下にかかわる際には、どのような点を意識していくと効果的なのか。多忙な日常の中で、同じ時間をかけるならば、効果が高い3つのポイントについてまとめていきたい。
1つ目としては、挑戦する機会とそれをサポートする安心を提供できているか。前述の「成長支援組織診断」で過去実施した100件以上の部署のデータを分析すると、「これからこの職場で、自分が満足できるほど成長できると感じている」という成長期待に対して、高い相関を示す支援行動は、「再度チャレンジできる機会を提供される」、チャレンジする際に「不安を軽減してくれる」「能力に気付かせてくれて安心させてくれる」「周囲の期待を伝え意欲を湧かせてくれる」といったような項目だ。
ディビッド A.コルブ(David A. Kolb)は、「経験→省察→概念化→実践」という経験学習サイクルを提唱している。成長するためには良い経験が大事であり、そのためには成長できる挑戦が必要であることが分かるモデルだ。
しかし、無理に挑戦させようとしても、組織の中では自ら一歩踏み出しにくい。だからこそ、挑戦に対しては、不安軽減や意欲喚起を行う「安心」の支援が欠かせない。同じ挑戦を促すならば、「安心」を提供しながら挑戦を促す。そうすることで、部下が成長し、部下が新たな仕事に取り組むようになる。そういった状態を作ることを意識することが大事だ。
2つ目としては、深いコミュニケーションを行っているか。前述の「成長支援組織診断」の実施部署を見た時に、「互いの支援が非常に多く、成長実感・期待も高い」部署と、「互いの支援が普通、成長実感・期待も普通」な部署の差はどこに起こるか分析した。すると、全32の支援項目の中で大半が同じ程度である中で、差が出るのは「自分のコンディション(状態)を聞かれる」「時には、気持ちを引き締めてくれて、後押してくれる」「"何を学んだのか?"と問いかけられることがよくある」という項目だ。
「挨拶する」「面談をする」「話をしっかりと聞く」「経験を伝える」というような普通に接する上で必要なことはできていたとしても、一歩踏み込んだ支援ができているかが結果として大きな差となっている。同じ時間を費やすならば、表面的なかかわりを多くするのではなく、少しでも相手に踏み込んだコミュニケーションを多くすることが大事なのである。
3つ目としては、相手のことを心から期待しているか。以前あるネット系企業の育成担当者に対して「現在困っていることは何か」と問うと、「最近入社した若手社員たちが優秀すぎて、教えることがなく、困っている」という答えが返ってきた。最先端のネット技術において、若くても先輩たちよりもスキルが高いことはよくあることである。そのため「教えることがない」という考えになっているのだ。
しかし、若手社員に何を期待しているのか。プログラムをかけることだけを期待しているのならば、技術が高いだけで十分であるが、若い人たちが将来自社を背負っていく中核社員となっていくことを期待したならば、技術だけではなく人間力や、社内の人脈、その他伸ばすべきポイントはいくらでもあるのだ。
教育心理学者ロバート・ローゼンタールの実験で、教師の期待によって学習者の成績が向上することがあるという「ピグマリオン効果」というものがある。人は相手の期待を無意識的にも感じ、それが行動に影響するものである。同じ時間接するならば、相手のこれからの可能性に対して期待することが、成長という観点から見ると、非常に効果的なのである。
忙しいプレイングマネジャーが育成をするという高いハードルを打破するために、成長を支援し合う組織を作ること、時間が無い中で効果の高いかかわり方について述べてきた。次号は最終回として、今後に向けたアクションについてまとめていきたいと思う。
著者プロフィール
上林 周平
株式会社シェイク 取締役
大阪大学人間科学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。主に業務変革などのコンサルティング業務に携わる。2002年シェイク入社。各種コンサルティング業務と並行し、人材育成事業の立ち上げに従事。その後、商品開発責任者として、新入社員から若手・中堅層、管理職層までの各種育成プログラムを開発。また、2004年からはファシリテーターとして登壇し、新入社員から若手・中堅層、管理職層まで育成に携わった人数は1万人を超える。2011年9月より取締役就任。
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