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「育てる」から「育つ」へ社員が自律的に成長し続ける組織の創り方(2/2 ページ)

成長とはなんだろうか。ミスなく仕事ができる、業務知識が増えることだろうか? 仕事から得られる最高の報酬は決して失われることのない「人間としての成長」である。

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「良いかかわり」が「良い経験」を補う――組織診断が示唆すること

 100部署以上の職場の協力を得て実施した「成長支援組織診断」が示しているのは、経験の与え方ではなく、メンバーへの「かかわり方」を変えることで、職場での成長の質を変えられる、ということだった。そのポイントをおさらいしよう。人の成長は次の4つの「かかわり方(=支援)」の質・量・バランスで変わる。すなわち

(1)ストレッチ支援(本人にとってチャレンジとなる挑戦機会を提供する支援) 

(2)アドバイス支援(業務のやり方を教える技術的な支援)

(3)ハゲマシ支援(近くで寄り添い、やる気を支えたりする精神的な支援)

(4)キヅキ支援(経験をもとに自らの頭で考えて持論化を促す支援)

の4つの支援である。ご自身の職場では、4つの支援のどれが多く、どれが少ないだろうか? 改めて振り返ってみてほしい。

 この診断では、職場がメンバーの成長を支援する度合いを、100ポイントを最高値として、スコアにしている。それによれば、最高の職場は86.7、最低の職場は30.8で、50ポイント以上の開きがある。どちらの職場で過ごすかによって、メンバーの成長が大きく変わることになる。より詳しく見ると、その100部署の中で、上位5部署と下位5部署とで差が大きい行動が浮かび上がってくる。差が大きい上位5つの行動は、以下の通りだ。

1位:評価している能力を伝える(ストレッチ支援 / 差68ポイント)

2位:自分と向き合わせる(キヅキ支援/ 差67ポイント)

3位:振り返りの機会を設ける(キヅキ支援 / 差66ポイント)

4位:事実に基づいて褒める(キヅキ支援 / 差66ポイント)

5位:日常の行動を観察する(キヅキ支援 / 差65ポイント)

 いずれの行動も、上位と下位の5部署の間に60ポイント以上もの大きな差がある。これだけ見ても、「良い経験」だけでなく「良いかかわり」が、人の成長を左右することが分かる。

 もうひとつ、この結果から見逃してはならないより大切なことは、差が大きい上位5つの行動の支援の種類が「ストレッチ支援」と「キヅキ支援」に集中している、ということだ。本稿の第1回で、「アドバイス支援」と「ハゲマシ支援」が、特に組織や業務への順応を促す際に必要なかかわりであり、「ストレッチ支援」と「キヅキ支援」が、特に自律的に成長できる人材を育てる際に必要なかかわりである、と整理した。挑戦する機会を創り、その機会から学びと自信と成長を得る、という自律的な成長のサイクルにとって欠かせないかかわり方が「ストレッチ支援」と「キヅキ支援」なのである。

 通常は、成長のためにかかわると「アドバイスをしよう」となることが多いが、診断の結果を見ると「能力向上実感」「成長期待」「与え違い(もう限界と感じる度合い)」などのメンバーの状態を表す数値と相関が高い上位10個の行動に「アドバイス支援」は1つしか入っていない。

 先に挙げた人材輩出企業の代名詞・リクルートには、創業者の「自ら機会を創り、その機会によって自らを変えよ」という言葉が脈々と受け継がれている。そして、その機会=経験を「しんどかった、やっと終わった」で終わらせるのではなく、自分の成長を実感し、自信に変え、また次の挑戦の機会へとつなげていく振り返りや内省が、さらなる挑戦を支えることになる。このようなかかわりを、直属の上司だけでなく、職場の先輩社員が積極的に行えるかが、メンバーの成長を左右するのだ。

「育てる」かかわりから、「育つ」かかわりへ――自律的な成長を引き出すかかわり

 当社の顧問でもある慶應義塾大学の花田教授は「OJT(On the job training)」と「OJD(On the job development)」という言葉の違いを紹介しながら、社員の自律的な成長を促す重要性を説いている。それによれば、企業内教育の王道だった「OJT」とは「人を育てる」という考え方であり、もう一方の「OJD」とは「人が育つ自律的な現場」に必要な考え方だと述べている。さらには「人が育つ仕組みは、要するに組織が教えない仕組み」とも述べている。実際の職場で「教えない」は極端に過ぎるとしても、既に見た上位と下位の5部署の違いの通り「評価している能力を伝える」「自分と向き合わせる」「振り返りの機会を設ける」などの行動を通じて、社員本人の「成長したい」「挑戦したい」という気持ちを引き出すようにかかわるところから、自律的な成長が生まれるのだ。

 スポーツの世界では、メジャーリーグのダルビッシュ投手や、サッカーの本田選手のように、自ら厳しい環境を求めて国境を超える人も増えてきた。大学受験の世界でも、海外の大学を志す人が少しずつ増えているというニュースも見る。「ゆとり」「さとり」などと若手の消極的な姿勢を嘆く声も聞くが、人には本来、ストレッチして成長したい、より良い自分を見たい、人に喜ばれたいというエネルギーが備わっている。「教える・育てる」ではなく、自律的に「育つ」職場づくりを目指すならば、ぜひ「組織や業務への順応」だけでなく、「一人ひとり」の「成長したい」という意欲と挑戦と学びを引き出し支援するかかわりを求めたい。

 本稿やこの当社の成長支援組織診断が皆さまの職場づくりに、そして社員ののさらなる成長につながることを祈って、ここで本稿を終わりとさせて頂く。最後までお読み頂いたことに、心から感謝したい。ありがとうございました。

著者プロフィール

上林 周平

株式会社シェイク 取締役

大阪大学人間科学部卒。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。主に業務変革などのコンサルティング業務に携わる。2002年シェイク入社。各種コンサルティング業務と並行し、人材育成事業の立ち上げに従事。その後、商品開発責任者として、新入社員から若手・中堅層、管理職層までの各種育成プログラムを開発。また、2004年からはファシリテーターとして登壇し、新入社員から若手・中堅層、管理職層まで育成に携わった人数は1万人を超える。2011年9月より取締役就任。


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