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国民皆保険へと動き出したインドネシアヘルスケア産業の魅力と落とし穴飛躍(4/4 ページ)

世界第4 位の人口と豊富な中間層、近年の安定的な経済成長と日本に対する親近感の高さを背景に、インドネシアの位置づけはますます高まりつつある。中でもヘルスケア産業は、市場参入や新事業展開に期待が持たれているが“落とし穴”はないのか。

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Roland Berger
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3、極めて難しい投資判断

 3つ目の"落とし穴"として、インドネシアの単一国としての投資判断の難しさを挙げたい。いかに将来性のある市場とはいえ、インドネシアは現時点で日本のヘルスケア市場の5%程度にすぎない。ASEAN全体を含めたとしても、現状では日本の15%程度だ。もちろん成長性は日本より大きいかもしれないが、多くの場合、3年、5年という時間軸ではグローバルの一角を担うような売上貢献を期待するのは難しいのではないだろうか。その一方で、インドネシアはヘルスケア産業に幅広く外資規制を設けている。例えば、外資系企業が総合病院を運営することは原則禁止されており、参入は専ら専門病院に限られる。当然患者のパイも限定され、成功を確実にするには緻密な事業性評価と綿密な計画が必要だ。

 また、製薬会社に対しては、最大75%までの出資規制がある(85%までに緩和予定) ほか、販売する医薬品に対し、5年以内にインドネシア国内で生産することが義務付けられている。したがって、インドネシアで事業を行うには、生産工場の設立か、または国内に既に工場を持つ企業への生産委託を検討しなければならない。しかし、短期−中期の事業性がそれほど期待できない中で、工場設立の意思決定をするのは簡単ではないし、生産委託にしても、インドネシア国内の既存工場にグローバルファーマが求める生産品質を担保できるかという問題がある。

 また、工場設立となれば当然インドネシアだけではなく、近隣国も含めたサプライチェーンも考慮にいれなければならず、その場合インドネシアがASEANで最適な生産拠点なのか、といった判断も必要となる。こうした判断をするには、ASEAN全体をどのような戦略で攻めるか、というところから議論を始めなければならない。短中期に期待できる事業性に対して、必要となる初期投資や不確定要素、リスクが極めて大きく、結果「時期尚早」との判断が下ったとしてもおかしくない市場なのである。実際、製薬メーカーのインドネシアでの販売状況と生産工場の保有有無を見ると、グローバルメガファーマでもいまだ工場を持たず、インドネシアに参入すらしていない企業も少なくない。図H参照。


図H:多国籍製薬メーカーのインドネシア展開状況

「現地現物」と「不測への構え」

 外資系企業が陥りがちな3 つの"落とし穴"を回避するためには、市場の全体像や市場構造、医療環境の実態を理解することが大前提である。しかし、インドネシアについてこうした情報を揃えるのはきわめて難しい。結局のところ、一つ一つ現地現物で確認していくしかない、というのが筆者の実感である。同時に、どんなに市場の理解を深めたとしても、翌日には環境が一変する、というのも新興国の特徴である。複数のシナリオを想定した上で戦略オプションを用意し、不測の事態にも柔軟に対応できるように事業を設計しておくこともまた重要なのではないだろうか。

 インドネシアは決して一筋縄で事業拡大ができる国ではないが、国民皆保険へと向かう大きな流れをうまく捉えつつ事業の足場を固め、長期的には大きな果実を実らせることを目標に置きながら、日系ヘルスケア産業がますますプレゼンスを高めていくことを期待したい。

著者プロフィール

諏訪 雄栄(Suwa Yoshihiro)

ローランド・ベルガー インドネシアジャパンデスク シニアプロジェクト マネージャー ジャカルタ駐在。

京都大学法学部卒業後、ローランド・ベルガーに参画。 日本および欧州においてコンサルティングに従事。 その後、ノバルティスファーマを経て、復職。製薬、医療機器、消費財を中心に幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略 (特に新興国)のプロジェクト経験を多数有する。


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