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「一流の大衆食堂」としてのサービスを追求し、進化することをやめない矢場とん経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)

みそかつの代名詞として親しまれている「矢場とん」。名古屋の食文化を伝えるために独自のポリシーを持ちながら、変わることを恐れない。進化を続けるための取組みとは。

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大衆食堂にもマナーがあることを、日本の文化として伝えたい


鈴木代表取締役(右)と聞き手の井上氏(左)

井上 3代目代表取締役として、今後取り組んでいきたいこと、目指したいものは何ですか。

鈴木 会社のみんなが頑張ってくれているからこそ、順調に店舗を展開することができ、私は会社の自慢をすることができると日々感じています。私にとって、社員は家族のような存在です。

 私が74歳を迎える年に、会社は創業100周年を迎えます。ひとつの節目として、その100周年を何人の仲間と祝うことができるだろうかと考えています。もし私が横暴な経営者になって社員のことを思いやれなくなったら「こんな社長についていけない」といって仲間たちは去っていくでしょう。もしかしたらひとりで100周年を迎えているかもしれません。多くの仲間と一緒にいて、しかもそれぞれの社員が自分の家族を幸せにできていたら、それは社長の器を測るひとつの指標になると思います。名古屋の食文化であるみそかつを伝えるとともに、社員を食わせていかなければなりません。

 社員が活躍できる場を作りたいという思いから新たなチャレンジもしています。海外への展開もそのひとつです。現在海外の店舗はバンコクだけですが、将来、ハワイやニューヨーク、ロサンゼルスにも店舗を作れたらいいですね。国内のお店はすべて直営店ですが、海外の場合はフランチャイズにしています。海外店舗を直営店にすると、長い間家族と離れて海外で暮らさなければいけない社員が出てしまいますが、フランチャイズなら「海外出張」という形で定期的に店舗の様子を見に行くだけですみます。長期の海外滞在は社員の負担ですが、短期の海外出張なら社員が喜んで行き、モチベーションも高まります。

井上 最後に、「一流の大衆食堂」として、お客さまにどのような価値を提供していきたいとお考えですか。

鈴木 矢場とん独自の一流の大衆食堂としての在り方を継承しつつ、大衆食堂として食にかかわる文化を発信する集団を目指したいです。今の矢場とんのベースは私の母である女将が作ったものです。女将は変わることを恐れず、あらゆる改革を行ってきました。

 小さなことであっても、それまでのルールを変えることは容易なことではありません。しかし、進化し続けなければ、みそかつを提供することさえできなくなってしまうかもしれない。私たちは常に変わることを恐れず、ニュートラルな姿勢で、進化し続けたいと考えています。

一流の大衆食堂として、お客さまに伝えていくべきこともあると感じています。客と店の間の固定概念を無くし、日常の中での礼儀を踏まえた人としてのマナーを知ってほしいです。

 例えば、私たちが子どもの頃は飲食店に行くときに子ども用の食器を持って行くのがあたりまえでした。しかし今は、お店側のサービスが過剰になっているということもあって、子ども用の食器は店側で用意するのが当たり前だと思っているお母さんもたくさんいます。でも、それは違うと。銀座の寿司屋に行くときは、店に対して客側が気を遣いますよね。高級店に限らず、飲食店でのマナーというものがあります。大衆食堂にも昔は当たり前にマナーがありました。別に自分たちが楽をしたいわけではありません。日本人の文化としての気遣いです。それを取り戻し、伝えていくのがが私たちの目指す「一流の大衆食堂」の在り方だと考えています。

対談を終えて

 3代目代表取締役である鈴木氏のお話から「原点回帰」の言葉が強烈に印象に残りました。普通は代表取締役を継承すると何か新しい試みや施策を打ち出したくなるもの。この言葉からは自分の代で創業100周年を迎えたいという覚悟が伺えました。また、矢場とんはあくまで大衆食堂であるという立ち位置から顧客満足を考え人材育成をしているのには脱帽。これだけの人気店になっても浮つかない、全ての経営者が見習うべき姿です。本来なら親が幼子の皿は持参するべきであるという逸話からは、サービスを提供する側にも受ける側にも先ずは人としてのルールがある事を学びました。お客さまでも原点回帰、大衆食堂だけが可能な顧客満足ではないでしょうか。いやはや面白い!

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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