剣の極意から学ぶビジネス規範――ポジティブシンキングで「驚懼疑惑」を克服する:「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)
エネルギー分野や運輸・交通分野、都市開発、復興支援、グローバル展開など、日本の未来づくりを支援する日本政策投資銀行。金融力による未来のデザインを支えるIT戦略とは。
――情報企画部長として期待されていることは。
前任の部長が、2012年に本社移転と情報系システムの刷新を終え、2013年度より基幹業務システムの再構築に着手した。前回の株式会社化対応の再構築では、時間的な制約などもあり、アプリケーションにあまり手を加えられなかったことから、今回はシステム構成から抜本的に見直し、業務・機能ごとにアプリケーションを分けたSOA的な発想でシステム再構築を実施する方針を決定した。
業務・機能ごとにアプリケーションを分離し、それぞれを連携させるシステム構成とすることで、改定が必要な部分だけを取り換えることが可能になり、経済環境の変化や金融商品の多様化などに柔軟に対応できるようになる。この仕組みを約5年間に亘り段階的に実現していく計画だ。
前回の再構築の経験を買われたのか、前任の異動に伴い、再構築2年目の2014年に着任した。異動内示の際、当時の副社長(現在の社長)から「戻ってきてシステムの再構築を担当してくれ」と言われた。新旧システムと業務プロセスを段階的に切り替えていく非常に難易度の高い今回の再構築をしっかりやり遂げることが課せられた任務と考えている。
剣道から学んだビジネス規範
――話は変わるが、教士七段という腕前の剣道についてうかがいたい。
小学校5年から剣道を続けている。当時は背が低いうえに泣き虫で、よくいじめられた。学校の途中にあった警察署をのぞくと柔道と剣道をやっていて、「剣道はかっこいい! 心身ともに鍛えたい!」と思ったのがきっかけである。両親は、私が剣道を続けられるか懐疑的であったが、「一生続ける」ことを条件に剣道を習い始め、現在に至っている。
――剣道の教えは、ビジネスにも役立っているのか。
南九州支店長時代に、常に自らを省みる教訓的なものを作成したところ、支店内で共有しましょうという声があがり支店の業務規範とした。情報企画部への異動に伴い、一部リバイスしたものが「情報企画部業務活動規範」である。内容としては、これまでの業務経験を踏まえた反省もあるが、大半は剣道から学んだことである。
情報企画部業務活動規範
〜当部の付加価値は「提案」と「実現」〜
- 常に大局的な観点から物事を考えよう
- 何事にも興味を持とう
- 失敗を恐れない
- クリエイティブシンキング
- ポジティブシンキング
- 提案は改善や成長の萌芽
- 人の模範になろう
- 消化より防火
- 信頼の基礎は頻度とコミュニケーション
- 目標は高く
――最も剣道から影響を受けたのは。
剣道の最大の転期は五段から六段に昇段したとき。先生からは「よかったね」と言われたが、「でも、まだまだ」とも言われ、その意味が分からなかった。その後、試合で負けが続いたり、納得できるような稽古ができずモヤモヤしていたときに、先生から「打たれたということは、自分の弱点を教えてもらったのだから、相手に感謝しなさい」と言われた。
「勇気を持って思い切って打ち込み、それでも打たれたら相手に感謝する。そして反省し、工夫する。それを繰り返すこと」という言葉が発想の転換になった。六段に昇段したばかりのときは「攻めとは何か」と聞かれ答えられなかったが、今なら「攻めとは、相手の心に"驚懼疑惑"を生じさせること」と答える。驚懼疑惑とは、驚き、恐れ、疑い、迷いのことであり、そのような気持ちを相手の心に生じさせ、打つべき機会を作ることである。
このときから、剣道に対しても、仕事に対しても、取り組み方がガラリと変わり、打たれることや失敗を恐れず何事にも挑戦しようという気持ちが強くなった。剣道では、打つ前の戦略と決断、打った後の反省と工夫が大切であり、ビジネスにおいても同様のことがいえる。勝ち負けにかかわらず、当事者双方、そして見ている人も納得するような美しい剣道が理想だ。現在、子供たちにも「美しい剣道を目指しなさい」と教えている。
――次の時代のITリーダーに一言。
ITリーダーこそ、率先していろいろなことに興味を持ってほしい。既成概念や固定観念に囚われず、柔軟な発想で様々な物事を受け入れ、そこから自分なりに取捨選択をしてほしい。このとき判断軸だけは、しっかりと持っていることが重要だと考えている。
対談を終えて
藍場氏の剣道の腕前は「教士七段」である。この「教士七段」がどの位のものなのか剣道をやっている知人に聞いたところ、強さだけではなく正しい姿・カタチが必要で、その人にとっては「雲の上のような存在」と教えられた。
剣道に限ったことではないであろうが、一つの道を究めようとする人の強さと姿勢が私には印象的で、羨ましくも思えた。自信を持ちつつも傲慢になることなく、固い芯を持ちつつも柔軟なリーダーシップの一端を垣間見たような気がする。文字通り「外連味」のない対談で、清々しい気持ちが残った。
プロフィール
重富 俊二 (Shunji Shigetomi)
ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー
2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。
ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。
早稲田大学工学修士(経営工学)卒業
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