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第2回:「強みを生かした」戦略で事業の構造を変える激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(2/2 ページ)

中計で掲げたTransformの実践、そこに不可欠なのは企業の「強み」を「てこ」にした戦略だ。今回は、コニカミノルタの主力事業である情報機器事業の戦略の考察を通じて、その重要性を検討してみたい。

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 2014年度からの中計、「Transform 2016」では、山名社長の元で、同社の情報機器事業は更に加速してTransformしている。現在、同社のホームページでも紹介されているように、買収したIT企業のノウハウも生かして教育、流通、医療、法律、金融と言ったヴァーティカル・ソリューションを強化すると同時に、企業のマーケティング部門といった上流に食い込んでMPM(Marketing Production Management)サービスを構築してきている。

 近年、マーケティング部門は、デジタルコンテンツを元に、紙媒体の印刷を行ったり、ネットやデジタルサイネージに展開したりと、ターゲットに応じて異なるチャネルを選択して市場とコミュニケーションをとらなければならなくなってきている。山名社長は、このような異なるニーズに「One Stop」で応えるサービスを提供できる力を養っていると語っている。そのために、印刷物のコストダウンや業務プロセス改革、マーケティング企画支援のサービスに強みを持つCharterhouse PM Limitedを英国で買収し、豪州ではErgo Asia Pty Limitedを買収した。このような企業の買収を通じて、サービスのノウハウを習得すると同時に、マーケティング部門に対するリレーションも手に入れているのだ。

 更に、Big Data分析に基づくクロスメディアコミュニケーション戦略の企画と実施に強みを持つIndicia Group Limitedも、Charterhouse PM Limitedを通じて英国で買収した。また、上流ばかりでなく、日本および韓国ではキンコーズも買収している。つまり、デジタルコンテンツを軸に、マーケティング部門では商業印刷業界のプレーヤー(コニカミノルタにとっては、プロダクションプリントの重要な顧客であり、パートナー)も巻き込んで、市場に最適なコミュニケーションチャネルでアプローチできるソリューションを用意すると同時に、企業顧客内の販促・営業用資料といったデジタルコンテンツも、最適なツール(HP、モバイル、紙)で提供できるようにするソリューションをMPMサービスとして展開しようとしているのだ。「Transform 2016」で目標とした、「MFP事業転換Phase2(Print Volumeに頼らない事業への転換)がReady状態になっている」をこのような形で具現化してきたと言えるだろう。

 このような戦略を成功裏に収めることができたのには、実は過去からの伏線がある。旧コニカには、商業印刷で使用されるフィルムを提供していた頃から、商業印刷業界のお客様の懐に飛び込んでビジネスを行う、お客様のビジネスを深く理解している印刷業界のプロが存在した。このメンバーがプロダクションプリンターを生かしたソリューションを日本の商業印刷業界に提案し、更に欧米へと展開していった。この「強み」があったからこそ、企業のマーケティング領域でのビジネスに強みを持つ企業を買収することで、先述したMPMサービスの展開が実現できたのだ。このメンバーは、現在も商業印刷マーケットでのリーダーを務めており、欧米でこのマーケットを攻める際にはキャラバン隊のように序のメンバーが市場に出向き、どのようにこの市場を攻略するかを指導した。

 コニカミノルタは、主力事業である情報機器事業でこのような戦略を策定・実行し、Transformしてきたわけだが、そこで最も重要なポイントは同社の戦略は「強み」を最大限に生かすことに重きを置いてきたことだと筆者は考える。多くの企業の戦略策定・実行において、多くの時間を自社の課題や弱みの議論に費やしても、それを克服する術がなかなか見つからない、やってみても上手く行かずに取り組みが頓挫するといった場面が多々見られる。課題や弱みを克服する最善の手法は、「強み」をてこにすることであり、まず「強み」が何かを明確にすることから始めなければならないのは鉄則だ。しかし、ある意味真面目に取り組もうとすればするほど、多くの日本企業は同じようなジレンマに陥ってしまう。

 これに対して、コニカミノルタは、自社の顧客基盤であるSMBマーケット、ビジネスパートナーでもある商業印刷業界のプレーヤー、そして言うまでもなく自社の直販拠点といった「強み」を押さえ、これを軸にして戦略を策定し、実行している。また、この他にも「競合他社と同じことをやらない」「コントローラブルにビジネスを進める」といったことを軸にしたからこそ、厳しい競争環境の中にいながらTransformするという、非常に高いハードルを越える戦略を策定し、実行できたのだろう。同社が策定した情報機器事業の戦略とその実践からは、Transformationを標榜する多くの企業が参考にできるポイントが多々あると思われる。

 今回は、戦略の考察という事で、コニカミノルタの取り組みを少し大局観をもって取り上げたが、実践の場では必ずしも多くの事がスムーズにいったわけではなく、多くの痛みも伴った。次回は、特に「社員の意識変革」の観点から、そのようなことも取り上げて考察してみたい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の

外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。


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