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「その建物のこと何でも知ってます」――現場データの見える化が西松建設のIT活用の鍵「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

創業から140年以上の歴史で培った技術を活かし、土木、建築、開発・不動産のコア事業からレタス栽培まで、常に新しいプロジェクトにチャレンジする西松建設。同社が目指すIT活用とは。

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着工から完成までのデータを一元管理

――BIM/CIMとは、どのような取り組みなのかうかがいたい。


西松建設 古村氏(左)、ガートナー 重富氏(右)

 BIM/CIMをひと言でいえば、3次元データをプラットフォームに、建設プロセスと建造物のライフサイクルに係わる情報を連携するモデルである。BIM/CIMのメリットのひとつに、これまで図面では分からなかった設計上のずれを、3次元モデルにすることで、設計段階で発見できることがある。これにより、建設現場での手戻りを最小限にし、生産効率の向上や開発コストの削減が期待できる。

 現在、蓄積されているコンテンツは完成時の情報であり、着工から完成までの各プロセスでアウトプットされる中間情報は体系的に管理されていない。つまり、現場のことは現場(あるいは担当者)にしか分からないということだ。そこで一連のアウトプットを、一元管理することで、他の現場でも活用できる仕組みの構築に取り組んでいる。この仕組みを「その建物のこと何でも知ってます」と表現して呼んでいる。

 現場で発生した問題を解決するための情報がどこにあるのか、だれが持っているのかなど、時間がかかることがまだまだ多い。困ったときに、すぐに情報を得ることができれば、問題解決の時間を短縮することができる。また、人材育成の観点でも有効になる。

――データにより現場を見える化することで、業務を透明化し、人材育成や生産性の向上につなげ、さらに会社の全体像を把握できるのはすごい仕組みだと思う。

 定年退職するまでにできればいいのだが(笑)。

――あらためて、西松建設の強みとは。

 弊社では、「現場力」を前面に出した取り組みを推進している。現場力とは、「現場におけるきめ細やかな施工管理力と、現場に潜むさまざまな課題を自ら発見し、自ら解決するチカラ」だ。現場に寄り添い課題解決する姿勢は弊社の強みであり、お客様から評価をいただいているところだ。IT活用で更なる現場力の向上を支援していきたい。

アイデアを会社で具現化できるリーダーに

――お話の中で、「おもしろい」、「おもしろくない」を物事を進めていくうえでの判断基準にしているように受け止められるが、どのような思いからなのか。

 自分では気がつかなかった。確かに責任ある立場になって、仕事がおもしろくなった。責任が取れないうちは、これらを判断基準にはできなかった。しかし自分で責任を負わなければならないのであれば、それが例え大変な事であっても、自分がおもしろいと思える方向を選ぶべきでしょう。

――その考え方は、どこから生まれてきたのか。

 親からは、人様に迷惑はかけるなということだけ言われていた。若いときは、何でも慎重で、積極的ではなかった気がする。たくさんの先輩と仕事をし、姿を見て、経験を積み、そして責任ある立場になるにつれ、それだけではいけないな、と。

――ところで、最近パン作りにはまっていると聞いたが。

 始めて1年ほどになる。きっかけは、嫁と娘が料理教室に通い始めたことだ。「じゃぁ、俺はパンだ」と興味本位で通い始めたら、楽しくてはまってしまった。現在、レパートリーは30種類。パンコースでよかったのは、子どものときにやった粘土遊びのような感覚でできることで、ものづくりの原点に返れる。癒し効果もあるらしい。

 最近では妄想の世界に入っていて、客の入る店と入らない店の違いはどこかとか、企業向けのマーケティングと個人向けのマーケティングはどこが違うのかとか、SNSの広告はどう作れば効果的かとか、パン屋のデジタルビジネスはなんだろうとか、パン屋開業に向けてさまざまな妄想を楽しんでいる(笑)。

――最後に、次の時代のITリーダーに一言。

 次世代のリーダーを目指す若者には、自分でアイデアを出し、そのアイデアをどうすれば会社の中で実現できるかを考え、失敗を恐れずに実行することができるリーダーを目指してほしい。

対談を終えて

ITの方向性を指し示す言葉として「その建物のこと何でも知ってます」とは、言い得て妙だと思う。結果としての事実だけをデータ化するのではなく、決定までのプロセスで採択されなかったさまざまなアイデアやその理由などがデータ化されれば、確かに将来への活きた財産になる。だいたい、この言葉を聞かされたら「それってどういう意味ですか?」と思わずペースに引き込まれてしまう。

このような言葉を発案する古村氏は、素晴らしいアイデア・マンだと感心してしまった。きっと、これまでにないパンも創作してくれるのではないかと密かに期待している。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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