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第3回:「意識を変えざるを得ない状態」を作ることで意識変革を促しTransformationを実践する激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(3/3 ページ)

企業のTransformationを実現するのは、実際にはその企業の人材である。従来通りの思考、働き方をしていてはTransformationは成し得ない。企業で働いている個々人にも、変革が求められているのだ。コニカミノルタは、この難題にどのように取り組んだのであろうか?その実践の考察を通じて、社員の意識変革の手法に関して考えてみたい。

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 このような経験を糧に、外の血を取り込み続けながら内部人材の意識変革を行い、グローバルレベルで新たなソリューションを作り続けられるようにするために作った仕組みが、2014年に世界5極で開設したBIC(Business Innovation Center)である。

 この組織は、地域・市場のニーズに即した新規ビジネスを開発・提供することを目的としており、これまでの取り組みの一つの集大成と言える。松崎取締役会議長(※「崎」は正式には旧字の立つ崎)は、BIC設立に向け「生き残っていくためには進化を続けなければならない。しかし、例えばMFPは、モノクロからカラー化して以降に飛躍的変化がない。このようなことに問題意識を感じ、飛躍的に変化するためには中だけの議論では十分ではなく、部外者に当社の商品やビジネスを理解してもらった上で生まれる新しい発想が必要と考えた」と語っている。

 そこで、当センターの全体統括、各極のトップは外部からヘッドハンティングした人材を登用し、全体統括はICT業界で製品・事業開発を推進した経験のある人材、各極トップも同様に、起業や事業開発を経験してきた現地人材という布陣となっている。

 BICの規模は各々10人ぐらいで、最大でも20人程度の必要最低限の小さい組織で運営していく方針とのことだ。そこで不足するものは、オープンイノベーションで外部と提携しながら開発するスタイルを取ることで、環境変化のスピードに対応していこうとしている。また、BIC各極と日本の事業部門が協力するような、内部での連携も含めて取り組んでいる。

 例えば、ハードは日本が開発し、ビジネスとしてのトータルな部分のリーダーは欧州、アプリは米国が開発するなど、グローバルでスピード感を持ってビジネスを進めて行くような形である。要は、全体を一番分かっている人がトップに立ち、チームの構成はグローバルから適材適所で柔軟にチームを作るという、グローバル企業に相応しい組織運営を志向しているのだ。

 また、チームメンバーについても、ストック人材とフロー人材(正規社員ではなく必要に応じて出入りする人材)というシリコンバレーの企業と同じ様な考え方を適用しようとしており、その時々の状況に応じて優秀な「外」の視点を持っている人材を、柔軟に活用して行く方針とのことである。

 さらに、事業間の壁を取り払って会社全体でグループシナジーを生み出す意識を持たせるために、2013年には持株会社・分社化制を廃止し、一つの事業会社となった。この実施に当たり、松崎氏は全世界の社員に対して「事業毎のサイロは取った。あとは皆さんの心のサイロを取って下さい」というメッセージを発信したとの事である。この変革は、その後具体的な形となって成果を生み出し始めている。

 例えば、ヘルスケア事業では米国の情報機器事業とヘルスケア事業が一体となって病院向けソリューションを開発・提供し、これまでの消耗品ビジネスが減少する中、DR・超音波などの製品とこれらの情報を統合管理して診断に生かすサービスビジネスの構築が進んでいる。松崎氏は、このような変化を見て「(それまでは)会社の方針、形がこのような変化を拒ませていた」のだと語っている。

 これ以外にも、コニカミノルタではTransformationを実現するために、生産や販売の人材をグローバルレベルでローテーションしたり、計測事業では買収した企業と開発者の交流を図ったり、TACフィルム事業では生・販・開一体の市場情報共有を週次で行ったりするなど、さまざまな施策を行って社員の意識改革を行っている。

 これらの取り組みには、松崎氏の言葉に代表される首尾一貫した思想があるように思われる。それは、「新たな商品・ビジネスを考える上で重要な事は、"先を見ること"と"ユーザーの用途を考えること"である」という言葉だ。

 変化する環境の中でグローバルにこのようなことを実践するために、経営陣が各現場で行っていることの基本方針は、「中の議論に閉じない」という事のように筆者には思われる。ビジネスの基本ではあるが、愚直に市場のニーズを組織全体でつかみに行き、開発から営業、サービスまでが一体となって市場の要請に応えるソリューションを提供する意識を持つ。また、自前では持てない発想は「外の血を入れて」内部を活性化し、新たな発想を生む。

 サービス業への変革を標榜する日本のメーカーは多いが、新たな取り組みにおいて技術論に固執したり、自前主義にこだわり続けたりする企業も多い中、「市場」と「外の血」を活用して社員に「変わらなければならないという意識を強く持てる」ようにするコニカミノルタの基本的な考え方、手法は大いに参考になるのではないだろうか。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の

外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。


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