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「カスタマー・ハッカー」コンセプト――「モノ売り」脱却への道視点(2/3 ページ)

質の高いものを開発し、つくりこみ、ふんだんに機能を揃えて販売する。この日本の製造業のモデルはジリ貧だ。生き残るためには新しいビジネスモデルを恐れずに挑戦すること。

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Roland Berger

3、「カスタマー・ハッカー」コンセプトはすでに鳴動している

 このコンセプトは、それぞれのケースで名前は違えど、すでに日本国内においても動き始めている。特に提供している製品がさまざまな機能を付加しうるマシンであった場合には、カスタマー・ハッカーはより実現性を増す。

KOMATSUのスマートコンストラクション


KOMATSUのスマートコンストラクション

 KOMATSUの建設機械にはKOMTRAXという機械稼働管理システムが装備されており、どの機械がどの場所にあって、エンジンが動いているか、燃料がどれだけ残っているか、昨日何時間仕事をしたか、すべてが KOMATSUのオフィスで分かるしくみがある。

 これによって、機械または燃料の盗難防止、迅速な故障対応・メンテナンス、運転指導など、さまざまな付加価値をKOMTRAXによって実現している。これはカスタマー・ハッカーの初期版ともいうべきものだが、KOMATSUはこれでは終わらない。スマートコンストラクションという新しいカスタマー・ハッカーのモデルを築きつつあるのだ。(図B参照)

 スマートコンストラクションとは、ICTを積んだ建設機械、ドローン、施工情報の3D化によって、工事効率の向上サービスを提供する。

 ドローンで地形データを計測し、施工完成図面を3D化し、掘削・精緻作業を機械に読み込ませ、作業を半自動化。非熟練者でも複雑な作業が行える。自社開発のステレオカメラで他社製の建機の状況をも把握でき、作業を大幅に効率化する。

 サービスフィーは、削減できた工事コストの約半分を徴収する。これはまさに、「作業の効率化を通じて工期を順守・短期化し、コスト削減を狙いたい」という、いままで捉えてきたもの以上の本質的な顧客ニーズを突くものだ。そのために自社開発の KOMTRAXやステレオカメラのみならず、ベンチャー企業のドローン技術を取り入れたり、外部人材を登用したりと、自前主義にこだわっていない。

 その先の本質的なニーズを満たすための道具立ては世の中に存在するのだ。典型的な「カスタマー・ハッカー」 コンセプトを体現していると言える。

クボタのKSAS(クボタスマートアグリシステム)


クボタのKSAS(クボタスマートアグリシステム)

 同様にクボタも、田植え機やトラクタ、コンバインといった農業機械を提供するにとどまらず、農業関連情報の詰まったクラウドやセンサーなどを用いることで、作業の効率化、在庫調整、収益の最大化を支援するKSAS(クボタスマートアグリシステム)を打ち出そうとしている。(図C参照)

 具体的にはこうだ。KSASのクラウドには各種情報が蓄積されており、それに基づいて田畑毎の収量や食味・水分などを確認し、必要な施肥計画をつくりあげる。その裏側には、水分やたんぱく質測定技術があり、必要な最適肥料量を導きだすしかけだ。

 また、施肥計画に基づいて、作業者のモバイル端末に機械稼働計画が伝えられ、作業を行う。田畑にどれだけの肥料がまかれたのかが分かり、結果としてどれだけの収量や食味であったのか、データとして蓄積される。さらには、市場の需要動向を見ながら、いつ刈り取れば収益が最大化するのか、在庫量が適切に保たれるのかまで、レコメンデーションが飛ぶのだ。

 これもまさに「機械を売る」ということからジャンプし「農家にとっての収量や販売利益を最大化する」という深いニーズにアドレスしたものだ。これによりクボタは、自社選好性を向上させることに取り組んでいる。

 2社の例をみてきたが、彼らは戦う領域を顧客側へ大きく拡大している。その領域は、これまでよりもずっと深い本質的な顧客ニーズに立脚している。そのために必要な道具立てを揃えて、新しい戦い方を模索しているのである。

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