【新連載】人脈とは何か:人脈を科学する――つながる人、引き上げる人、できる人の法則(2/2 ページ)
定量化と可視化ができないところが人脈の難しさだが「ある」、「なし」ではかっていいのか。
「知っている」だけではなくて「助けてくれる」人脈
つながっているだけが人脈でしょうか。「偉い人」を沢山知っていることが人脈でしょうか。ビジネスパーソンという視点で考えてみると少し違う気がします。数年前に、上場企業の経営企画室の30代から40代の基幹社員を相手に人脈についての調査をしたことがあります(注)。意外だったのは、彼らのほとんどが自分の「人脈はそう多くないと思う」と評価し、人脈を構成するメンバーは社内が圧倒的に多いと答えていたことでした。そして、人脈だと思う相手は「自分も相手を助けるし、相手も自分を助けてくれるだろう人」即ち、単に相手を知っているだけではなく、一歩進んでお互いが助け合うだろうという自信を持つことができる人を人脈メンバーと見なしていました。
ビジネスパーソンにとっての人脈メンバーは「相手が何か自分のためにしてくれる可能性がある相手」です。単に名刺交換した、その後FBで少し絡んだ程度では、相手が自分のために何かしてくれる可能性は非常に低い。知っているだけでは人脈として機能しているとは言えません。ただ、これは非常に難しい。人脈の構造を考えてみるとその難しさが浮かび上がります。
(注:詳しくは高田朝子『人脈のできる人−人は誰のために一肌脱ぐのか』慶応義塾大学出版会2011年参照)
確定できない要素が多すぎる「人脈」の構造
「相手が自分のために何かしてくれる」と定義した瞬間に自分ではコントロール不能な要素が入ってくるのです。分解してみましょう。第1に自分が持つ「あいつは自分を助けてくれるだろう」という期待です。これは自分の判断によるものでコントロールが可能です。そして個人の思考傾向の影響を強く受けます。
「一度知り合えば皆親友」というタイプの人は直ぐに他人を自分の人脈メンバーとしてカウントするでしょうし、注意深い人、あまりオープンマインドではない人は、なかなか人脈メンバーとしないでしょう。人脈メンバーとして認知するか否かの採用基準に個人の思考傾向の差異が強くでます。
第2に「相手が自分を助けるという意思決定をする」行動です。これは相手のあることですので、コントロールができません。そして、いくら「相手は自分のために働いてくれる」という期待を持ったとしても、実際その時が来てみないと分からないのです。あくまでも、自分の期待でしかなく、その実現は不確実です。
第1の部分で個人の思考傾向の影響をうけること、第2の部分でコントロール不能な要素が入ってくることによって、自分のために何かしてくれる相手、と人脈を定義したときに絶望的に曖昧模糊としてしまうのです。
個人の思考傾向はおいておくとして、第2の部分は自分の「診立て」でしかありません。私たちにできることは、この診立ての精度を上げることだけです。そのためには何をすればいいのかというと、これは人を見る目を養うことにほかなりません。
人脈の構造――お互いに一肌脱げること
人脈はお互いに一肌脱ぐことのできる相手です。相手が助けを求めたら自分は何か必ず行動するし、相手も自分が助けを求めたら同様に行動してくれるという自信を持てる相手のことです。
ではこの自信はどのように作られていくのでしょうか。私の行った調査によると、共通していたのは一緒に修羅場を乗り越えた経験でした。次回は人は誰のために一肌ぬぐのか?を詳しく見考えていこうと思います。
著者プロフィール:法政大学 ビジネススクール教授 高田朝子
モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
主な著書『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈の出来る人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、『危機対応のエフィカシー・マネジメント −「チーム効力感」がカギを握る−』(慶應義塾大学出版会)、『組織マネジメント戦略 (ビジネススクール・テキスト)』(共著、有斐閣)
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