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第4回:顧客志向とオープンイノベーションの徹底した実践でTransformationの軸となる尖った製品を創る激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(3/3 ページ)

ソリューション提供型へのTransformationと言っても、メーカーとしてはその軸には製品がある。軸が尖り続けていなければ、ソリューションも差異化が難しい。今回は、Transformationを支えるコニカミノルタならではの尖った製品開発の取り組みに光を当ててみる。

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 コニカミノルタのジャンルトップ戦略を支えるもう一つの重要な要素が、自前主義にこだわらないオープンイノベーションだ。その好例として、ヘルスケア事業のDR (デジタルX線撮影装置)や超音波診断装置が挙げられる。2011年に発売したカセッテ型のDRでは、開発に必要な技術で当社が保有している/していないものを整理した上で、不足する技術を他社との提携やリクルーティングで補った。

 例えば、DRで初めて採用された短時間の充電で長時間使用可能となる交換不要のリチウムイオンキャパシタは、他社との協業による研究で生まれた。カセッテ型DRは持ち運び可能なことが長所の一つであるが、これは落下に対する筐体強度が必要となる。しかし、劣化に伴って交換を必要とするバッテリーでは、十分な強度を実現できなかった。そこで、強みを持つ企業と協力して、新たな強度のあるバッテリーを開発したのだ。

 この取り組みを、当時DRの開発リーダーだった常務執行役の腰塚氏は、「"自分でできることは自分でやってしまう"という考えを持つことがオープンイノベーションを阻害してしまうのであり、できる/できないだけで判断してはいけないことを学んだ」と語っている。

 また、超音波診断装置では、コニカミノルタが2014年1月に事業統合したパナソニックヘルスケアの超音波部門とともに共同開発し、「高周波・広帯域・高感度」を売り物とするプローブ(超音波を送受信するデバイス)を搭載した第一号商品を2014年に上市している。

 有機EL照明では、2007年〜2011年にかけてGEとの共同研究も行っている。照明事業で経験豊富なGEと共同研究を行ったことは、非常に貴重な経験であり、これはGEに「"付き合える会社"と評価してもらえる関係を作り上げられたために実現した」と松崎氏は語っている。自社よりも規模が大きな会社とでも協業の枠組みをしっかり創り上げ、互いの強みに敬意を払うことで、イコール・パートナーの関係で協業可能な事を実例として作り上げたのである。

 このようなオープンイノベーションの取り組みが実践できているのは、松崎氏が過去の経験から培ってきた志向も大きく寄与していると筆者は考えている。松崎氏は、90年代半ばにアメリカでHPとのプリンターの共同開発を経験したのだが、それは、開発の仕方・ルール、そして言語も異なる中で、「スピード」が求められるビジネスであった。そのような経験の中で、「自前主義にこだわらない事の重要性、そしてそれを当社であれば実現できる事を実感した」と当時を振り返って松崎氏は語っている。

 このオープンイノベーションの考え方は、MFPのコントローラー開発時にも生かされることになるが、「市場で勝つためには、自分達だけではできない事がある」という松崎氏のポリシーは他の経営陣にも「自然な考え」として受け入れられ、「進化し続ける企業」としての重要な経営ポリシーになっていったと思われる。そして、この考え方が結実した現在の成果が、前回のコラムでもふれた世界5極にあるBIC(Business Innovation Center)だ。

 ICT業界で製品・事業の開発を推進した経験のある人材をリクルーティングし、外部の目でコニカミノルタの事業を眺め、Transformationのためのアイデアを出してもらうことと、各地域でオープンイノベーションを推進してスピード感を持って製品化・事業化を進めることを意図してこの組織が作られたのだ。

 これまで見てきたように、製品販売からソリューション提供型企業にTransformationを図っているコニカミノルタだが、そのソリューションの軸にはジャンルトップ戦略で磨き上げてきた"尖った製品"がある。

 そこでは、技術を軸に生まれるプロダクトアウト的な発想と、徹底的な顧客志向のマーケティング的な発想の融合が図られている。更に、この発想を広げると同時に、尖った製品、更にはこれを利用した尖ったサービスの開発スピードを上げるためのオープンイノベーションの思考が組み込まれていっている。これを、仕組み化しようという取り組みが、正にここ数年のTransformationの一環として行われているのだと筆者は考える。

 「当社はまだまだ発展途上」、松崎氏は謙虚にその取り組みを評価しており、仕組化できた部分もあるが、まだまだ属人の部分も残されている事が課題と語っている。この仕組み化がある段階まで到達すると、ソリューションの軸となる尖った製品を継続的に生み出し続ける、本当の足腰の強い企業になるということだと筆者は理解している。

 スマートフォンの発想に基づくMFP、そのMFPを軸としたソリューションを早く目にしてみたいものである。日本には、素晴らしい要素技術や生産技術を持つメーカーが数多く存在する。そのような企業が、ソリューション提供型のサービス企業へTransformすることを試行する際には、コニカミノルタのこのような取り組みをぜひ参考にしてもらいたい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の

外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。


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