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第5回 総力を結集したソリューションカンパニーへのTransformation激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(2/2 ページ)

「One + 企業(グループ)名」は、最近多くの企業が掲げるスローガンとなっている。企業のベクトルを統一し、持てる力を結集して市場に付加価値を提供しようという意思の表れであるが、その実践は容易ではない。コニカミノルタも、同様にOne Konica Minoltaを掲げ、事業間シナジーを発揮して社会の課題解決に貢献する高付加価値型ビジネスへのTransformationを行っており、その成果を出しつつある。今回は、コニカミノルタがいかにしてグループのベクトルを統一し、実態の伴う変革を実践できるようになったのかを考察する。

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 この変革を行った際に、松崎氏は全世界の社員に対して「事業毎のサイロは取った。あとは皆さんの心のサイロを取って下さい」というメッセージを発したのだが、これは、その後具体的な形となり、グループシナジーが生まれ始めた。例えば、米国の情報機器事業とヘルスケア事業が一体となって病院向けソリューションを構築・提供した。更に、ヘルスケア事業においてDR・超音波へと事業の柱が移ることで消耗品ビジネスが減少する中、情報機器事業のサービスでの収益モデルを理解している人材をヘルスケア事業のトップに異動し、両事業のシナジーによるサービスモデルを構築していった。

 松崎氏は、新体制へ移行した年に、企業としての共通の価値観も形にしてグループ全体に提示した。これは、アメリカのCOOから「グループ共通のValueを定義して発信した方がいい。理念からスローガンまでを体系化すべきではないか?」という提案がきっかけだったとの事である。One Konica Minoltaとしてのベクトルを統一するために、「これまで大事にしてきたもの」、「今後のあるべき姿」の2つを軸に社員を巻き込んで議論を行い、全社からの意見を吸い上げて策定したのが、次の6つの共通の価値観である。

  • Open and Honest
  • Customer-Centric
  • Innovative
  • Passionate
  • Inclusive and Collaborative
  • Accountable

 このうち、"Inclusive and Collaborative"の"Inclusive"は松崎氏が想いを持って加えたキーワードだ。日本は村社会であり、仲間とはコラボできるが、違う社会・国・仲間とのコラボが苦手な傾向にある。これからの時代はこのような村社会意識を打破した取り組みが必要になると感じ、これを特に意識して欲しいキーワードの一つとして付け加えたとの事である。

 社会の課題解決に資する企業へのTransformation、これを実現するためには事業間のシナジーを最大限に発揮し、コアコンピタンスを結集する必要がある。コニカミノルタは、Transformationの過程において組織体を変え、共通の価値観も再設定して取り組んできた。その成果が、冒頭に紹介したようなCPSをコンセプトとしたソリューションとして形になりつつある。このような考え方でのビジネス展開は、既存顧客に対するビジネスの深耕にも貢献している。

 例えば、計測機器事業の顧客だった農業法人への提案が好例と言えるだろう。この農業法人では経営を変革する必要に迫られており、それを支援するパートナーを求めている状況にあった。そのニーズをくみ取り、コニカミノルタの総合力を生かした経営変革支援サービスの提案を行ったところ、ここにパートナーとしての価値を見出したこの農業法人は、結果的に他社製MFPもコニカミノルタ製に移行したのである。

 しかしながら、このプロセスはまだ途上であり、2016年4月1日付でコニカミノルタビジネスソリューションズ、コニカミノルタヘルスケア、そして本体の計測機器事業の国内販売部門を統合してコニカミノルタジャパンを設立したように、進化を続けている。このような組織改革は、分社制、社内カンパニー制、事業本部制と時計の針を元に戻すような取り組みだが、あるべき姿にTransformするためには最善のやり方と経営陣が判断して実行しているのだ。

 一方、どんな組織体制にも一長一短があり、このやり方があらゆる企業にもベストな選択であるわけではない。近年、HD制を廃止し事業会社制に移行する企業はまれだが、他にも事例がないわけではない。例えば、日本製紙は2013年にHD制を廃止したが、厳しい業界構造の中でなかなかビジネスを変革できずにいる。自社がどのような形にTransformすべきなのか、そのために自社の持つ力を結集できる組織体はどうあるべきなのか、どの企業も徹底的に議論し、変化し続ける必要があるのではないだろうか。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の

外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。


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