第6回 弛まずTransformし続けるための取り組み:激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(2/2 ページ)
「当社も、私自身も発展途上にある」、松崎取締役会議長と話している際に何度となく筆者はこの言葉を聞いた。Transformし続けようとする企業の経営者として、非常に謙虚な姿勢を持ち続けていることの表れと感じる。このような自己認識こそが、進化し続ける企業の経営者として不可欠なのであろうが、これを企業活動に反映させて継続することは容易ではない。本連載の最終回として、今回はコニカミノルタがGoing Concernとして進化し続けるためにどのような取り組みを行っているのかを考察してみたい。
次に、オープンイノベーションの取り組みだが、コニカミノルタは何もかもオープンにするわけではなく、「Open Close Architecture」というポリシーを策定して実践している。このポリシーでは、顧客に価値を提供するために開発・生産・販売の各Functionに対して、Buy、Borrow、Buildのどの手法を基本とするかを定義している。
例えば開発はBuyによるM&Aを軸とした自社への技術の取り込みと保有を、生産はBuildによるPartneringを軸としたノンコア部分の外出しを、販売はBorrowによるJVを軸とした得意なマーケットを持つ企業との協力を、といった具合である。この考え方に基づいて開発されたビジネスの典型例が、第3回のコラムで紹介したケアサポートソリューションである。このビジネスは、介護業界のお客様の協力を得て開発したのだが、お客様とのビジネスの共創というコニカミノルタのオープンイノベーションの特徴をよく表していると言える。
そして、オープンイノベーションを実践するための仕掛けとして用意しているのが、八王子の研究開発拠点の「共創の場」と、このコラムでも何度か触れている世界5極に開設しているBIC(Business Innovation Center)である。「共創の場」には、技術展示(Demonstration)、パートナー共創(Collaboration)、技術研鑽(Development)の3つの機能が付与されている。技術展示は、コニカミノルタの持つ技術の強みや可能性をお客様やパートナーに知ってもらうため、全分野の最新技術を一同に集め展示するオープンイノベーションの入口となっている。
展示内容に対する交流の中から共創のタネやきっかけを生み出すことが狙いである。パートナー共創は、新たなビジネスチャンスや将来のアイデア、新たな技術の創出を狙い、特定のお客様やパートナーを迎え、新しい価値・真の価値とは何か一緒に考えてもらう場である。また、パートナーに長期間滞留してもらえる共同開発の場も準備している。技術研鑽は、パートナー共創からの成果やアイデアを具現化し新たな製品・サービスとしてお客様に価値を提供していくための、コニカミノルタ内のシナジーの場、HUBである。この「共創の場」は、現在は日本だけに設置されているが、市場特性に応じたビジネス展開を旨とするコニカミノルタのことなので、恐らくBIC とセットで今後グローバルに展開されるのではないかと、筆者は期待している。
BICは、過去のコラムでもふれたように、世界5極で市場の変化に即した新たなビジネスの発想を生むことを狙っている。そのため、全体統括や各極のトップには、ICT業界で製品・事業開発の推進、起業を経験してきた人材、あるいは他社や研究機関とオープンイノベ―ションを経験してきた人材を外部からリクルーティングしており、これまでのコニカミノルタの思考に縛られない発想で、事業開発のプロによる事業開発を志向している。組織の規模は10人程度(最大でも20人)で、小回りの利く運営を行い、不足するものは外部との提携で補うことでスピーディーに環境変化に対応したアイデアの具現化を図っている。BICでは、現在は常時90〜100の案件が動いており、「これからは、共創の場とBICが当社のオープンイノベーションの推進役を担って行く」と腰塚氏は語っている。
このように、社会課題解決型のデジタルソリューションカンパニーにTransformするために、新たな事業を生み出し続ける仕組みを整備してきているわけだが、コニカミノルタは経営がこの仕組みを正しく運営できているかを監視する仕組みも作り上げようと取り組んでいる。その1つが、Dow JonesのSustainability Index のツールの活用である。これは、経営の各機能(イノベーションマネジメント、環境、社会、人材育成等)を評価するワールドインデックスであり、Sustainabilityを重視して投資先銘柄を選ぶ年金機構などで活用されている。
松崎取締役会議長は、このインデックスが事業の継続性を問う項目がしっかりと設定されており、その要求項目が毎年変化するところに着目し、経営のPDCAを回すツールとして活用し始めた。これを利用することにより、それぞれのカテゴリにおいて各業界セクター内での自社のPositioningが分かり、グローバルプレイヤーと比べ何ができているか、できていないかを把握できる。この評価項目を活用してPDCAを回すことにより、客観的で投資家の眼鏡にかなう厳しい視点から、経営が社会の要請に応え新たな付加価値を生み出し続けているかをチェックし、継続的な改善を行っているのだ。現社長の山名氏も、継続してワールドインデックスを経営管理のツールとして活用しているとの事である。
そして、もう1つの重要な仕組みが、社外取締役による経営のチェックである。コニカミノルタは、指名委員会等設置会社として経営の監督と業務執行を明確に分けている。経営陣は、その業務執行に関して、取締役に対して説明責任を負っている。社外取締役の選任基準として「出身の各分野における実績と識見を有していること」と定められており、これまで小松製作所、ダイキン工業、日野自動車、日本板硝子、新日鐵住金、IHIなどの日本を代表するグローバル企業の経営経験者が就任している。他の企業では、社外取締役に学会から就任するような方々もいるが、コニカミノルタでは、経営経験が豊富であり、異なる領域での経験を持つ方々が、経営を厳しくチェックしているのである。このような、経営陣自らが自身を客観的に厳しく評価する仕組みを用意することで正しい経営を行い「足腰のしっかりした、強い成長を続けられる会社」、「社会から支持され、必要とされる会社」になろうとしているのだ。
本コラムは「激変する環境下で生き残るためのTransformation」と題し、サービス企業へと変革しようとする取り組みに関し、ビジョン・戦略から、サービスのコアとなる尖った製品を生み出し続けるための仕組み、企業を一枚岩にするための組織の考え方、変革に向けての社員の意識変革、そして経営システムまで、コニカミノルタの事例を基に6回に渡って考察してきた。いかがだったであろうか?基本的な考え方から、具体的な施策の事例までできる限り分かりやすく執筆したつもりだが、読者の皆様の実務に少しでも参考になったであろうか?これから、経営環境の変化はますます激しくなるものと思われる。そのような変化の波に飲み込まれず、力強くTransformationを成し遂げようとする企業の経営者の皆様、ビジネスを実践するリーダーの皆様に、少しでも参考にしてもらえれば幸いである。
また、これまで述べてきたようなTransformationを行ってきたコニカミノルタが、今後いかに継続して進化し続けるのかは非常に楽しみである。「当社は発展途上」、この謙虚な姿勢を持った経営陣が社員と一丸となって取り組めば、5年後、10年後には素晴らしい社会課題解決型企業になっていることと思う。その変貌を、ぜひ一緒に見ていってほしい。また、コニカミノルタと同様にTransformし、グローバルに活躍する日本企業がどれだけ出るかも非常に楽しみである。
最後に、本コラム執筆に当たり、コニカミノルタ取締役会議長の松崎氏、代表執行役社長の山名氏を含め、ご協力をいただいた経営陣の方々に心からお礼申し上げる。
著者プロフィール
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティングを設立。アンダーセン・コンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にて様々な業界のプロジェクトを経験。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁等の業界で、多数の戦略立案、業務改革プロジェクトに携わると同時に、上場企業の
外部監査役、社外取締役等も務める。2000 年からはMBA スクール、企業研修の講師としても活躍し、2009 年にビジネスでの実践力を高めるための「OJT 代行型研修」を掲げるシンスターを設立。顧客企業の実務内容を盛り込んだ研修プログラムや、アクションラーニングを多数提供している。
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