なぜオープンハウスの都心戸建て住宅は飛ぶように売れるのか?:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(3/4 ページ)
都心で好立地の戸建て住宅が今売れている。しかも主な買い手は年収500万〜1000万円の平均的な会社員だという。こうした物件を販売するのがオープンハウスとはどのような会社なのだろうか。そしてなぜそれが可能なのか。
先入観は捨てるべき
大薗: オープンハウスは土地の仕入れもユニークで、三角形の土地や線路沿いの土地など、値段が付きにくい土地も積極的に確保しています。さらに仕入れ営業については地域担当制ではないため、同じ不動産仲介業者に複数のオープンハウスの営業担当者が営業していることも少なくないといいます。この仕組みは当初から原型があったのか、企業の成長とともに仕組みを変えてきたのですか?
荒井: 仕組みそのものは変わっていません。用地を仕入れる際、同業他社は仲介業者の情報を貰って入札で買うのが一般的です。しかも多くはベテランの営業マンが担当しています。当社では学校を出たばかりの若手社員が担当していて、とにかく運動量豊富。顧客との接触時間が多い方が、売り上げ数字が伸びることは分かっていたので、そのようにしています。合理的な選択です。扱う土地がほかの会社では事業化が難しい場合でも、コミュニケーションが毎日しっかり取れているので、「オープンハウスなら何とかしてくれる」という信頼関係が不動産仲介事業者との間にできているのです。
大薗: 他社は土地の仕入れを重視していないのでしょうか?
荒井: 入札なのでそう安くは買えず、そこでほかと差はつかないと考えているからでしょうね。また大手はより魅力的な完成品にして販売するといった出口戦略に力を入れているので、調達価格が高くても気にしません。ただ、それでは顧客が本当に望むものを作れないだろうと思います。
また、三角形の土地は売れないと言いますが、生まれたときから三角形の場所に住んでいる人にとってはまったく問題ないのです。線路沿いや墓地の隣の土地だってそう。それよりも都心に近いという理由で買うわけです。どんどん顧客ニーズは合理化されています。常識にとらわれず、昔からある先入観は捨てるべきです。当社は商品を企画するとき、まず若者にヒアリングします。どこが今人気の場所なのか、若い人が一番よく知っています。
大薗: 販売戦略はどのようにされているのですか?
荒井: 起業したときから営業で一番大事なものは、営業力(コミュニケーション)ではなく、問い合わせ件数だと考えています。問い合わせの多い担当者が営業力があるのです。すごい腕のいい営業マンがまったく買う気のない人に売るのと、すぐに買いたい人に能力がない営業マンが売るのではどっちがいいと思いますか? 問い合わせさえ多ければ、たとえコミュニケーション能力が低くても売れるのです。
大薗: 顧客はそれでいいのでしょうか?
荒井: 買うモノがあるということが大きいです。家は感情で買います。ロジックでは買いません。偉そうなロジック型の営業担当から家は欲しくないでしょう。上から最もらしいこと言われるよりも、下から気持ち良くさせてもらいたいのが人間の本能です。
不動産に関して、究極的に顧客にとって営業マンは関係なく、場所と価格なのです。そこに良い商品を提供すればいい。あとは営業マンが信頼できそうかだけ。
大薗: オープンハウスは土地だけでも販売されますが、顧客の何割くらいが建物までを購入するのですか?
荒井: 7〜8割です。2〜3割は土地だけを買うお客さまで、「あの住宅メーカーで建てたい」といった思いがある顧客です。その顧客を取るための労力はかけず、「どうぞ、よそで建ててください」と言います。実は土地で全体の利益の大部分を確保しているので、建物だけ他社製でも当社には何らデメリットはありません。当社は土地と建物の総額で勝負していて、建物に関しては原価に近い価格でやっています。例えば、5000万円の物件があるとして、土地が3500万円、建物が1500万円。土地だけを見ると割高だけど、総額では安くなるのです。
大薗: 土地だけだと割高というのは、土地の販売の勝負としては不利なように思われますが、御社の仕入れる土地がユニークだから不利にはならないということでしょうか?
荒井: あとは大きさも違います。当社みたいに15坪、20坪といった土地はよそではあまり扱っていません。さらに安い価格であればなおさらです。
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