今こそ、デジタル化へと舵を切るとき:スマホやIoTですべての企業がソフトウェア駆動型へ
SAP のPaaS、「SAP Cloud Platform」がモバイルやIoT の機能強化を図り、企業のデジタル変革を支援するクラウドプラットフォームとして進化を遂げている。東京での発表に合わせて来日したロルフ・シューマン上級副社長は、「今こそ、デジタル化へと舵を切るときだ」と話した。
デジタル化の波はもはや止めようがなく、大きなうねりとなって日本企業に押し寄せている。新たなテクノロジーによって、顧客との関係をより良いものにし、働く人たちの能力をさらに引き出すデジタル変革は、企業を取り巻く環境をかつてないほど一変させ、業界を問わず、およそすべての企業にその影響が及ぶとみられている。
「新たなテクノロジーが世界を変えようとしている。今こそ、デジタル化へと舵を切るとき」
こう話すのは、SAP のロルフ・シューマン上級副社長。SAP Cloud Platform部門のマーケット戦略を統括しているグローバル・ゼネラル・マネジャーだ。
ご存じのように、北米はもちろんのこと、欧州や新興国においてもUber やAirbnbといった、デジタルテクノロジーを活用した創造的破壊者、いわゆる「ディスラプター」が既存事業者のビジネスを奪い続けている。いずれもタクシーやホテルは一切所有していない。それにもかかわらず、瞬く間に世界最大のプレーヤーへと急成長を遂げた。
「ウチはB2B の製造業だから……」
しばしばこうした言葉を日本企業の経営層から聞くが、それはデジタル変革の表層しか見えていないのかもしれない。「スマホで簡単にクルマを呼べる、部屋が予約できる」というのは氷山の一角にすぎない。
シューマン氏は、「デジタル化は、ひとやモノ、あるいは顧客企業やパートナー企業をスマートにつないでいくことによって、およそすべての企業がソフトウェア駆動型の企業になることだ」と話す(図A)。
企業にとって大切なのはデータから得られるインテリジェンス
ここ数年、IT 業界はこぞって、「デジタル化によって顧客とより良い関係を築こう、これからはSystems of Engagement(SoE)が重要になる」と喧伝してきた。
確かに、顧客を中心に据えて一人ひとりに寄り添うには、既存のSystems of Record(SoR)は適していない。企業の製品やサービスを中心に考え、取引のデータを正確に記録することを目的に構築されてきたシステムからだ。
しかし、SoRとSoEという特性の違い、さらには構築の流儀の違いによって、どちらかというと技術者の視点から情報システムを捉え直すというのは、少し腑に落ちないところがある。企業活動にとって不可欠な「データ」の視点が抜け落ちているように感じられるからだ。
これに対して、SAP が考える情報システムの捉え方が図Bだ。
中央に位置する「モード1」と「モード2」は、SoRとSoE であり、Gartner の表現を踏襲したものだ。デジタル化によって企業に差別化をもたらすシステムとしてSoEを位置付ける一方、SoR においても機械学習などによってビジネスプロセスの自動化が大きく進むとみている。
SAP のユニークな考え方が反映されているのが、中央に位置する2 つのモードの情報システムを上下から挟んでいる、SAP HANAをベースとする「データ基盤」と「ビジネスインテリジェンス」だ。
SoE によってひとやモノがつながることでさまざまなデータが得られるようになるが、データがアプリケーションごとに閉じられてしまっていては始まらない。膨大かつ多種多様なデータをリアルタイムで掛け合わせて活用できる基盤があってこそ、顧客に寄り添う知見が導き出せたり、自動化による生産性の改善が可能となる。もちろん、経営層にとっては、桁違いの見える化が実現され、より良い意思決定が迅速に下せるようにもなる。
「小売りでは価格設定が重要になってくるが、在庫の状況だけを見て経験と勘で値下げするのと、顧客の購買行動を蓄積し、いつ、何を、なぜ買ってくれたのかを分析して手を打つのでは全くビジネスが違ってくる。ひととモノをつなぎ、工場や倉庫からPOS やペイメントシステムに至るまで、さまざまなデータを統合、さらに天候データのような外部データも掛け合わせ、優れた予測モデルを構築できれば、顧客の振る舞いを予測することもできるようになる」とシューマン氏。
IoT やAI では特定のソリューションを提供するベンダーは多いが、ビジネスプロセスには必ず脈絡がある。1970 年代から一連のビジネスソフトウェアを開発・提供し、「ERP」の雄として、顧客企業が事業活動全体をモデル化することを支援してきたSAP だからこそ、ビジネスのデジタル化、すなわちデジタル変革を大きく前進させることができるはずだ。
それはSAP 自身が変革を通じて進化させてきた製品やサービスをまとめた図Cを見てもよく分かる。
左には新たに生まれ変わった「SAP S/4HANA」が位置し、SoRとして企業の事業運営全体を支える。
一方、右にはSoEとしてデジタル化というイノベーションを実現するためのPaaS、「SAP Cloud Platform」(旧SAP HANA Cloud Platform)が大きく張り出す。モバイル、ユーザーエクスペリエンス、IoT、機械学習といった各種サービスのポートフォリオがデジタル化を広範囲に支援し、SAP BusinessObjects のクラウドサービスも提供される。
S/4HANAとCloud Platform のあいだには、SuccessFactors やConcurといったSaaSがあり、必要に応じて組み合わせることもできる。いずれもSAP HANA がデータ基盤として支え、データの垣根がないのが特徴だ。
これまで日本企業は多額の投資と労力を掛け、優れた情報システムを整備してきた。しかし、そのことは複雑化とサイロ化を招く結果ともなり、デジタル化を推進する足かせにもなりかねない。
「複雑化とサイロ化は世界の企業が直面している課題だが、何もすぐにアプリケーションを刷新しなければならないわけではない。プロセスとデータを切り離して考えればいい。企業にとって必要なものはデータだ。解決すべきはデータのサイロ化であり、まずは共通のデータ基盤としてSAP Cloud Platformを活用していけばいい」とシューマン氏は話す。
世界中で動き出したイノベーション
SAP Cloud Platformをイノベーション促進のために活用している企業は世界中に広がっている。ドイツのフォークリフトメーカーSTILL 社は、SAP Cloud Platformの機械学習やIoT 機能などを利用して、人の手を介さずに自律的に荷物のピッキングや配送・収納を行うcubeXXを開発した。
STILL 社の営業を統括するThomas Fischer 取締役は、「競争はすでにフォークリフトを、より高く持ち上げるとか、より速く運ぶといった機能競争からインテリジェント性の競争に変わりつつあり、ビジネスプロセスをIoTと連動させて最適化することが求められている。SAP Cloud Platformはそのためにベストな選択だ」と話している。
国内においても大手トラックメーカー、電力会社、運輸企業などさまざまな業種でSAP Cloud Platform の活用がすでに始まっている。
こうした波はスポーツにも大きな変革をもたらしている。
「ドイツのサッカーチーム、TSG1899 ホッフェンハイムでは、データを活用したアプローチで若手選手の育成に力を注ぎ、8部リーグからついに1部、ブンデスリーガへ昇格した。SAP Cloud Platformによるイノベーション実現の一例だ」とシューマン氏。
「これはライブ、本物のシステムだ」と強調しながら彼が見せてくれたのは、相手選手がPKをどこへ蹴り込んでくるのか予測するツール。シュート速度、蹴るのはインサイドかアウトサイドか、目線やアプローチの仕方は、プレッシャーの要素まで掛け合わせ予測モデルを構築、「バイエルン・ミュンヘンのロッベン選手のPKも、このとおり」、地をはうようなグラウンダーシュートを見事に予測してみせた。「これこそが最高のコーチだ」とシューマン氏。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2017年6月28日