ASEANに求められる技術革新――ASEANにおけるIoT/Industry 4.0の潮流:飛躍(2/4 ページ)
技術革新や高付加価値化というと、日本や欧米などの先進国が中心と思うかもしれないが、近年それはASEANにおいても重要なテーマとなっている。
2.1 ASEANにおける技術革新のベースとなるシンガポール
シンガポールにIoT/Industry 4.0の研究拠点を置くグローバル企業が増えている。政府の積極的な支援、ASEANの中心という恵まれた立地、電力・交通・ネットなどのインフラが整っていることがその背景である。各社はシンガポールから、ASEANにおける先端技術の展開を狙っている。
2.2 ASEANの課題解決に、ビジネスチャンスあり
ニーズがないところに先端技術を導入してもビジネスは成り立たない。ASEANにおける技術革新・高付加価値化はまだ初期段階であるが、一部では、産業の課題を解決するソリューションとしての導入が始まっている。グローバル企業の中には、ASEANで表層化している産業課題にうまくアプローチしているプレイヤーが見受けられ、以下に主な事例をご紹介する。
2.2.1 産業全体におけるエネルギー不足
エネルギーの不足は、ASEANの慢性的な課題であり、増え続ける需要に対してインフラの構築が追いついていない状況にある。シーメンス(ドイツ)は積極的にグローバル水準の技術を導入し、ASEANのエネルギー市場で高いシェアを獲得している。
シーメンスは、例えばVRを活用した工場建設の事前仮想シミュレーションや、プラントのモジュール化(※1)により、ASEANにおいて短期、かつ安価に、発電プラントを立ち上げている。また、世界中で稼働している発電プラントの運用データを分析して予知メンテナンスを実現。プラントのダウンタイムを最小化し、効率の向上に貢献している。
※1:プラントの複数構成要素(ガスタービン、ジェネレーター、インテークなどのパーツ・システム)の組み合わせ、モジュールをあらかじめ用意しておき、プラント建設時にブロックのようにそれらを組み合わせることでスペックに沿った発電所を短期・安価に建設可能となる
2.2.2 製造業における人件費の高騰・熟練工不足
ASEANの製造業は豊富な人材を活用した人海戦術が基本であったが、人件費の高騰により生産性の向上が必要な局面にある。また、熟練工が不足する中、アウトプットの質をどう維持していくかというのも課題である。
ナイキ(アメリカ)はベトナムの靴工場において、2万人以上の工員を対象としたマネジメント・システムを導入している。工員の能力・稼働日はサーバーに集約され、プロダクトの仕様や生産量に応じて最適に振り分けられる。また、手作業によるアウトプットの品質を維持するために、バッチごとの品質モニタリングシステムや不良原因のトラッキングシステムも整備している。
また、物流分野でも技術導入は進んでおり、例えば、マレーシア最大の郵便会社ポスラジュは2015年に韓国LG傘下のシステム会社が開発する物流自動化ソリューションを導入。従来対比で行員を約半分まで減らすことを目指している。また、DHL(ドイツ)による自動無人倉庫の展開は、シンガポールにおいてかなり進んでいる。
2.2.3 製造業におけるマス・カスタマイゼーションの必要性
ASEANはさまざまな人種・宗教・生活習慣の人が集まる地域であり、特にコンシューマー・ビジネスにおいては、多様性への対応と効率をどのように両立していくかという課題が生じる。
ユニリーバ(オランダ)はASEANの食品・生活用品の製造工場をスマート化することで、効率的に多様なニーズに応えた商品の製造に成功している。例えば、グローバル標準の工場設計に現地向けカスタマイズ機能を組み込み、グローバル・ブランドをローカライズする際の生産ラインの変更を簡単に行うことができる。市場需要にもとづいて商品の仕様やボリュームを変更する際も、生産ラインへの反映はスムーズに行われ、タイム・ラグは最小化されている。
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