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組織におけるシナリオプランニングの実践方法――プロジェクトの立ち上げ方VUCA時代の必須ツール「シナリオ思考法」(2/2 ページ)

シナリオプランニングを実践するためのメンバーの選定や事業へのつなぎの場面など課題にいかに対応するのか。

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 このフレームワークをベースにして、シナリオプランニングでは何に取り組めばよいのかを考え、まとめたのが図2のイメージです(今回紹介するのは実際に使っているものをやや簡易にしていますが、実際のプロジェクトで使っているものとほぼ同じです)。

シナリオプランニング・プロダクトマネジメントモデルの各ステップ

 まず「変革の準備」フェーズでは、チームメンバーを選ぶための情報収集をします。具体的には「ステークホルダー分析」と「コアチーム結成」と書いていますが、この2つは並行して進めていくプロセスです。

 この段階でプロジェクトの大まかな目的を踏まえ、その目的の達成に関連する人を分析するのがステークホルダー分析です。実際のやり方はシナリオプランニング特有のものではなく、通常のプロジェクトマネジメント体系などで紹介されている手法を原則としてそのまま使っています。

 ここで精度の高いステークホルダー分析を行うためには、コアチームの存在が必要です。コアチームのメンバーが中心となって、ステークホルダーの特定や分類などを行います。

 シナリオプランニングのプロジェクトを社内のメンバーだけでなく、コンサルタントも交えて実施する場合には、社内のメンバーとコンサルタント側のメンバーの両方がコアチームに入っているようにします。こうすることで、社内の人でないと知り得ないステークホルダー情報を元にしながら、コンサルタント側の知見を盛り込んで分析を進めていくことができます。

 次の「診断」フェーズでは、シナリオプランニング・プロジェクトの目的を明確にするために、ヒアリングや現状分析、それを踏まえたテーマ設定を行います。ここで特に重要なのはヒアリングです。現状分析と並行して、ステークホルダー分析で特定したキーパーソンに対してヒアリングを行います。これによって、各キーパーソンが未来のことをどう捉えているのか、気になっていることは何なのかを把握し、プロジェクトを通して考えるべきことを明確にしていきます。

 そのような情報を得て決めたテーマを元にして「未来を描く」フェーズで、シナリオを作成します。ここで初めて図1において紹介したプロセスに取り組んでいくことになります。

 ここで作成したシナリオをインプットとして「準備」フェーズではアクションを検討し、それを踏まえて「変革実施」フェーズにおいてプロジェクトの初期段階で明確にした目的を達成するための取り組みを進めていきます。

プロジェクトの目的を明確にすることの重要性

 ここまでいろいろ紹介してきましたが、このシナリオプランニング・プロジェクトマネジメントモデルに従って考えていくというプロセスは、要するにプロジェクトの目的を明確にすることなのです。

 シナリオプランニングを企業で利用する場合、未来を描くことが目的になってしまうことが少なくありません。しかし、未来を描くというのは、あくまで手段であって、それを企業の中でどのように活用するのかを明確にしたものが本来の目的であるはずです。

 本来の目的を明確にすれば、冒頭で紹介した3つの課題も全てクリアできます。つまり、目的を明確にするということは、3点目の事業とのつなぎを明確にすることに直結します。そこが明らかになっていれば、2点目で取り上げたシナリオの完成度の基準も自ずと決まります。例えば、研究開発のロードマップを考えるためであれば、収集する情報の正確性の精度を高めなければいけませんが、リーダーの育成などを目的にするのであれば情報の精度よりも作成するプロセスを重視する形になります。そして、1点目のメンバー選定も目的に沿ったメンバーを選べばよくなります。

 次回以降は、図1の流れに沿ったシナリオ作成の具体的なプロセスを紹介していきますが、その際は今回紹介した内容、特にシナリオ作成に取り組む前のステップを確実に進めるようにしてください。

著者プロフィール:新井宏征

スタイリッシュ・アイデア代表取締役。産業技術大学院大学 非常勤講師。

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年より現職。シナリオプランニングやプロダクトマネジメントなどの手法を活用し「不確実性を機会に変える」コンサルティングやワークショップを提供。東京外国語大学大学院修了。University of Oxford Said Business School Oxford Senarios Programme修了。

主な訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『プロダクトマネジャーの教科書』、『90日変革モデル』(すべて翔泳社)、主な著書に『世界のインダストリアルIoT最新動向2016』、『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(インプレス)などがある。


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