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組織におけるシナリオプランニングの実践方法――テーマの設定方法VUCA時代の必須ツール「シナリオ思考法」(2/2 ページ)

シナリオテーマは、シナリオプランニングのプロジェクトやワークショップの「入口」として位置付けられるもので、3つの要素を検討する必要がある。

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実例から考えるシナリオテーマ設定の注意点

 ここからはシナリオテーマを設定する際の注意点を弊社が実際に行ったプロジェクトの例を見ながら考えていきます。

 個別の企業の取り組みを紹介することは難しいのですが、こちらのプロジェクトは日本石材産業協会という業界団体で実施したシナリオプランニングプロジェクトです。日本石材産業協会とは2001年に設立され1225社の会員が参加しています(2017年5月時点)。同協会に参加している企業の多くは、お墓向けの石材を扱っています。近年ではお墓の需要が減ってきているだけでなく、管理をできなくなった人が墓じまいをすることも増えてきています。そのような中で、石材業界の未来を描き、業界団体として取り組んでいくためにシナリオプランニングを活用することになりました。

 前回も紹介したプロジェクトマネジメントモデルにのっとりヒアリングなどを行った上で、プロジェクトの初期段階で次の3つのシナリオテーマ案を提示しました。

  • 10年後の日本における国産石材を使った墓石関連ビジネス
  • 10年後の日本における墓石関連ビジネス
  • 10年後の日本における弔いの文化

 比べると分かるように、下にいくほど抽象度が高くなっています。このような3つを示した上で、最も抽象度が高い3つ目の案を薦めました。

 この連載の初回で、「未来は現在の延長ではない」という視点を持って、未来を考えることがシナリオプランニングに取り組む意義だと伝えしました。言い換えれば、シナリオプランニングに取り組むことで、「未来は今と大きくは変わらないだろう」という思い込みを排して、想定外の可能性も考え、柔軟性の高い戦略や施策を考えていけるようになることが大切なのです。

 そのような目的を踏まえると、上に挙げた1つ目や2つ目のシナリオテーマではプロジェクトに参加する日本石材産業協会の皆さんにとってなじみが強い「墓石」という言葉が入っているために、思い込みから抜け出せない可能性があると考えました。そこで、お墓というモノではなく、「お墓を買う」というコトに着目し、その背景にある「弔いの文化」が日本において、どのように変化する可能性があるのかを検討するのがいいだろうと考え、3つ目の案にしました。

 その後、より多くの人にインタビューを重ね、事前準備のための対話型ワークショップも進めていくにつれ、石材の用途をお墓に絞ってしまうことも思い込みかもしれないと考えるようになり、最終的には「10年後の日本における石材業界」としてシナリオを描きました。

 このようにシナリオテーマを設定する上で、特に重要なのは「スコープ」をどう設定するかです。その際、シナリオプランニングに取り組む目的を踏まえ、ステークホルダーへのヒアリングや関連情報のリサーチなどを元にして、プロジェクトやワークショップの参加者が思い込みにとらわれずに未来を考えられるようなものに設定することが非常に重要です。

著者プロフィール:新井宏征

スタイリッシュ・アイデア代表取締役。産業技術大学院大学 非常勤講師。

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年より現職。シナリオプランニングやプロダクトマネジメントなどの手法を活用し「不確実性を機会に変える」コンサルティングやワークショップを提供。東京外国語大学大学院修了。University of Oxford Said Business School Oxford Senarios Programme修了。

主な訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』『プロダクトマネジャーの教科書』『90日変革モデル』(全て翔泳社)、主な著書に『世界のインダストリアルIoT最新動向2016』『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(インプレス)などがある。


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