組織におけるシナリオプランニングの実践方法――外部環境分析の進め方:VUCA時代の必須ツール「シナリオ思考法」(2/2 ページ)
シナリオプランニングでは、一般的に自社や個人ではコントロールできない要因の変化に着目し、「外部環境要因」をなるべく多く収集するのが最初のステップ。
各省庁がお金をかけて作っているだけあって、カバーしている分野も多岐にわたっている上、比較的偏りのない情報が載っています。このような情報源で全体像を押さえてから、ニュースやシンクタンクが出しているレポートなどに目を通すというステップがお勧めです。
またこの段階では一見関係がないと思うような情報も残しておきます。なぜなら、情報の取捨選択はこの次のステップで行うからです。そのため、この段階では「なるべく多くの情報を収集する」ことを基準にして作業を行ってください。
収集した情報の分類
ある程度の情報が収集できたら、次は集めた情報を分類します。分類の際に使うのが「不確実性マトリクス」です(図2)。
不確実性マトリクスの横軸は「不確実性」です。前のステップで収集した外部環境要因が起きる(現実になる)可能性がどれだけ不確実かで分類します。左側は「不確実性」が低い、つまり「ほぼ確実に起きるといえる」(確実性が高い)要因が該当します。一方、右側は「不確実性」が高い、つまり「起きるかどうか現時点では決めきれない」(確実性が低い)要因が該当します。
「不確実性」を軸として考えるのは分かりにくいのですが、シナリオプランニングは不確実なものを考える手法だという理由で、このような言葉の使い方をします。そのため、本来は「不確実性」という言葉を使うことが正当な使い方なのですが、実際のワークショップでは、これによってかえって混乱を生むようであれば、カッコで書いたように「確実性」で言い換える場合もあります。
縦軸は「影響度」です。外部環境要因が起きた(現実のものになった)場合、テーマに与える影響が大きいと考えられるものは上、小さいと考えられるものは下に該当します。
この意味を念頭に置いて、実際のワークショップでは自分たちが収集した外部環境要因を分類します。収集した外部環境要因を付箋紙に書き、それらを不確実性マトリクスの該当する象限に貼り付けていきます。
ワークショップでは、それぞれの要因をどの象限に分類するかを、グループで議論しながら考えていきます。その過程でメンバーの意見が食い違うこともあります。例えば、「10年後の日本における働き方に関するシナリオ」というテーマで考えた際、ある人は「消費税増税」という要因が、不確実性は低く、影響度が大きいと考えて左上の象限に置くかもしれませんが、別の人は、影響度は大きいが不確実性は高いと考えて右上の象限に置こうとするかもしれません。
このような場合、それぞれの人がどういう判断基準でそう考えたのかを話してもらいます。すると、左上に置いた人は「消費税増税」というのを10年後に消費税が10%になることと考えていたのに対して、右上に置いた人は社会保障負担などが増えた場合、消費税が30%以上になることもあり得るのではないかと考えていたことが分かることがあります。このように、ここでもメンバーの常識や思い込みを浮き彫りにしながらワークを進めていきます。
全ての外部環境要因を分類し終えたら、いよいよシナリオの中身を考えていくことになります。次回は、不確実性マトリクスの分類結果を元にしたシナリオの考え方について紹介します。
著者プロフィール:新井宏征
スタイリッシュ・アイデア代表取締役。産業技術大学院大学 非常勤講師。
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年より現職。シナリオプランニングやプロダクトマネジメントなどの手法を活用し「不確実性を機会に変える」コンサルティングやワークショップを提供。東京外国語大学大学院修了。University of Oxford Said Business School Oxford Senarios Programme修了。
主な訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』『プロダクトマネジャーの教科書』『90日変革モデル』(全て翔泳社)、主な著書に『世界のインダストリアルIoT最新動向2016』『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(インプレス)などがある。
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