Alpha GoからAlpha Zeroへの進化は汎用性の追求――AIの進化で目指すのは業務の圧倒的な効率化:エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム(2/2 ページ)
IoT、ビッグデータ、ソーシャル、クラウドなど、デジタル技術は著しい進化を遂げている。それでは、デジタル技術の進化は、産業革新や組織変革、業務革新にどのような影響を及ぼしているのだろうか。
KPMGでは2017年12月より、AIを活用した人事業務の効率化、高度化支援サービスの提供を開始した。一般的に、人事業務に適用されているAIは、人が定めたルールに基づいて分類、評価する。山本氏は、「この問題点は、ルールを人が定めていることと、分析内容などAIがブラックボックス化されていることだ」と言う。
KPMGでは、顧客企業と一緒にAIの徹底的なチューニングを行い、その結果、AIがはじき出した人材配置レコメンドは高い評価を得たという。さらにAIによるレコメンドの中には人間では考えられない驚きの一手も。山本氏は、「さらにAIが進化すれば、80%、90%という圧倒的な効率化が期待できる」と話す。
「KPMGでは、自然言語処理や画像解析などのアルゴリズムを理解したスペシャリストが多数在籍しています。またAIを活用するための高度なテクノロジーへの知見やノウハウを有しています。これらを、いかに企業経営者の課題に活用し、圧倒的な効果を得るかが最も重要であり、それを具現化するのがKPMGのAI戦略的活用フレームワークである」(山本氏)
世界で日本は非常にまずい状況にある
最後の講演に登場した、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)理事、副センター長の西野弘氏は、「マネジメントとシステムの融合による組織力強化」をテーマに講演した。DBICは、日本企業がデジタル技術を駆使してオープンイノベーションを起こし、グローバルな競争力をつけることを目的に2016年に設立された。
DBICでは、ビッグデータ、モバイル、クラウド、ソーシャル、センサー、位置情報、決済システムの7つのデジタル技術を駆使することで、デジタルビジネスの創造、推進を目指している。DBCIのコンセプトは、レディーメイド型の機能支援とプラットフォーム型の事業創造の融合によるオープンイノベーションの促進である。
DBICを設立した背景を西野氏は、次のように語る。「日本は、他の国に比べ派遣会社がやたらに多いことが問題である。以前は、企業にとって人財が競争力の源泉だったが、現在は人財がコスト化している。また、労働生産性はギリシャに抜かれて最下位で、人材競争力はシンガポールの2位に対し日本は21位。現在、日本は非常にまずい状況にある」
欧米の国民は興味の対象が自国のニュースや世界のニュースであるのに対し、日本の国民は興味の対象が芸能ニュースであること、また小中高校では個性を認めない教育を、大学では自由な教育を行い、就職の面接では学生に個性を見せろといわれるが、入社したとたんに個性を認めない新入社員教育を実施するという21世紀にあわない教育方針も、日本のまずい状況だという。
日本は、まさに「ディスラプター(破壊的なイノベーター)」の登場が必要なときである。20世紀は、産業革命による技術革新で急成長したが、爆発的な人口の増加でマーケットが生まれたことがその背景にある。21世紀は、これまでに人類が直面したことのない状況であり、50年後どころか、10年後も予測できない。そのような時代に横並び型の競争戦略でまだ行っている企業が多い事実がある。
「未来予想が困難な現在、同業他社の戦略を横目で見ても仕方がない。自らシナリオを描くことが必要である。しかし、多くの企業がシナリオを描けない。いい商品を作れば売れる時代ではなく、4P(Product、Price、Promotion、Place)から4C(Customer Value、Customer Cost、Communication、Convenience)への変化が必要である」(西野氏)。
しかし、日本は特殊な環境にあり、デジタル化を推進しにくい状況にある。欧米企業は自社でIT人財を育成しているが、日本企業はITベンダーに依存している。ITベンダー依存では、これまでのエンタープライズ系とは違い、リアルなビジネスをデジタル技術で迅速に展開しなければならない現状に対応するのは困難である。
加えて、いま考えるべきは、プロフェッショナルな仕事とは何かということである。また、顧客志向なのか、顧客視点なのかも重要。さらにITサービスとマネジメントを融合させたパフォーマンスの改革も必要になる。西野氏は、「日本はIT部門が保守的。開発、運用部門からデジタルビジネス部門に変化しなければならない」と話す。
技術的には、ICTインフラ上での勘と経験と度胸によるビジネスの展開から、ICTインフラ上にマネジメントインフラを構築し、その上でのビジネス展開に移行することが必要になる。行うべきは、ITサービスマネジメントモデルの実践であり、PDCAサイクルとOODA(Observe、Orient、Decide、Act)サイクルの組み合わせである。
西野氏は、「シンガポールDBS銀行では、10年後に市場で生き残るためには、デジタルバンキングに移行すること。そのためには、シンガポールDBS銀行自身がデジタル思考に挑戦することが必要と言っている。今年のおみくじは、挑戦する人は“大吉”で、挑戦しない人は“大凶”である。常に冒険者であってほしい」と講演を終えた。
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