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プロ経営者 松本晃会長の下、現場では何が起きていたのか――カルビー大変革の舞台裏CIOへの道(4/5 ページ)

日本を代表するプロ経営者として知られるカルビーの元会長、松本晃氏。同氏がカルビーの経営に大なたを振るったとき、人事やIT部門はどんな施策でそれに対応しようとしていたのか。現場の取り組みに迫った。

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意味のないデータの「見えない化」も情シスの役割

――(聞き手 中野氏)部分最適を許容しながらやっていくということだと、管理部門とシステム部門は大変そうですよね。情報システムについては、どのような変化があったのでしょうか?

小室氏 私はカルビーに来て3年目なので、直接知っているわけではありませんが、以前は情報システムのコストが異常に高かったようです。

 かつては「コックピット経営」と言って、5万種くらいのデータを元に、生産だとかサプライチェーンだとか鮮度だとか、さまざまなプロセス指標を毎週更新していたんですね。これは作る方はもちろん、読み解くユーザーの方も大変で、「こういうことかな?」と考えたところでもう次の週になっていると……(笑)。

 おまけに、たくさんの指標があると、ユーザーは集計と報告に集中しだすんですよ。徹夜でそれを分析してメールで報告して力尽きる……というような状況に陥っていた。それでは何のための仕事か分からない、指標を報告するための仕事なんて全部やめろ、ということで、プロセス指標は全て否定されました。コックピットが三次元や四次元の世界だとすると、これからは車のダッシュボードだと。Excelシートで十分だということです。それで不要になったシステムがどんどん削られていき、情報システムの構築や運用のコストはずいぶん下がりました。それが2012年くらいのことです。

――データの可視化は“疑う必要がない自明の理”だと思っていたので、私も、「見えない化」の話を聞いた当時は驚きました。レポートを作るためにはプロセスが存在するするわけですが、それ自体が無駄を多く生んでいるとするならば、そこに手を入れるべきなのだろうと思いました。

 その後に、ERPの刷新をされたんですよね。

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カルビーの情報システム本部で本部長を務める小室滋春氏

小室氏 ちょうど私が入った頃に、ERPを変えるプロジェクトの終盤でした。ある意味、改革の総仕上げですね。

 以前は、カンパニーや地域ごとにPL(損益計算書:Profit and Loss statement)だけではなくBS(貸借対照表:Balance Sheet)まで作るような設定をERPに埋め込んでいたのですが、そんなものは誰も見ないんです。でも、それを作らないと決算処理ができないので、経理担当者は仕方なくやっていた。やっとなくせたのが、2016年にERPを変えたときです。そのとき、5千近くあったアドオンを一気に120個に減らしました。

 松本さんに「アドオンをゼロにしろ」と言われたんですよ。「勘弁してください。お上とお客さまの対応に必要な分だけでも200はあると思います」と言っても、「ゼロにしろ」というやりとりがありました。

 普通、経営トップはITの難しい言葉なんて分からないから、ごまかしてなんとかやっちゃおうというのがIT部門だったりするのですが(笑)、向こうから“アドオン”なんて言葉を出されてしまうと「分かりました」と言わざるをえませんよね。逆にそれが錦の御旗となって、本当に減らすことができました。

 松本さんもあちこちで「アドオン禁止」を言って回っていましたね。結果、残ったのは、顧客とのデータ連携部分と法律に関係する本当に必要な部分です。EDI(Electronic Data Interchange)は仕事をする上で必要だし、アドオンを完全にゼロにすると法律周りの対応ができない部分もあるので。

 並行してプロセスをシンプルにすることも推し進めました。経理が20以上のBSを作らなければ進まなかった決算処理がなくなったりして、ずいぶんとコストが浮いたんです。

――松本さん自ら言うのはすごい……。経営者が率先してシステム投資の方針を繰り返し発信して、施策レベルで徹底するのは相当、珍しいと思います。

 システムをシンプルにするには、制度やプロセスといった“システム以前の部分”がシンプルになっていなければなりません。それを現場のコンセンサスを取りながら積み上げるのは至難の業だと思うのです。どこかで誰かが決めないといけない。そこが「システム投資は経営の仕事」だと思う理由の一つなのですが、松本さんは、その責任を果たされたですね。

 それと、システム投資の改革で、BIやレポーティングといった情報系のところから減らしていくというのは珍しいですよね。可視化ということで増やすのがよくあるパターンですが。

小室氏 世の中には「見える化」に取り組む会社が多いですが、カルビーは「見えない化」です。変なものを見せると余計な仕事を作り出してしまうから、つまらないものは見せるな、と。経営指標のダッシュボードの項目は20個を超えてはならない、ということになっています。

――成果主義を運用する上でKPIは欠かせないものだと思いますが、ダッシュボードに載せる指標はどうやって絞り込んでいったのでしょう?

小室氏 成果主義のコミットメントのメインは、利益と売上ですよね。あとは、原価率とかシェア、人件費……、正直言って20個もないくらいです。

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