ICTでイノベーションをドライブし、元気で活気ある会社を創造する――三越伊勢丹システム・ソリューションズ 箕輪康浩社長:「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)
「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」を目指す三越伊勢丹グループ。IMSでは、グループ全体の構造改革を、IT分野でリードしていくことを目指している。
黙って引っ越しも決めたのですが、不義理をしたにもかかわらず、引っ越し当日に伯父さんがリアカーを持ってきて、引っ越しを手伝ってくれ、そのときには、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。伯父さんは、もう亡くなったのですが、生前「お前は社長の器じゃないな」と言われていたので、田舎に帰ったときには墓前で「社長になったよ」と報告しています。本当に第2の親でした。感謝してもしきれません。
こうした浪人時代の経験のおかげで、現在は少々のことでは苦労を感じなくなりました。また、いろいろな世界があることを知り、人の見方も変わったと思います。視野は確実に広がりました。かっこよくいえば、多様性を身に付けることができました。
攻めと守りのプラットフォームサービスでイノベーションをドライブ
――信条や価値観について伺えますか。
人と人のつながり、箕輪の輪ではありませんが、「和」が重要だと考えています。昔は自分から和を作るというより、和に加わる感じでしたが、歳をとるごとに和が重要になり、今は積極的に和を作る側になっています。昨年からコロナ禍で全く集まれていませんが、例えば、ヘビーメタルが好きなので、ライブにもよく行き、そのヘビメタ仲間には、会社関係や田舎の友人なども参加していたり、他にも、今ではそれぞれ別の道を歩んでいるNCR時代の同期と旅行に行ったり、ランニング仲間やご近所づきあいをしたりといった和がいくつもあり、価値観の違いやそこから得られる気づきは大変貴重です。
――社長業もあるのに、よく時間がありますね。
時間は作るものです。ただ、大変な状況下、リアルで集まることができずリモートで会話することも時折ありますが、仕事した後は一人家でお酒を飲むという日々が続いていて、新しい出会いが難しいのが悩みです。
――現在のビジネスにおける最重要課題とは。
ガートナー用語でいえば、レジリエンスの強化です。
コロナ禍による緊急事態宣言下で、ビジネス環境が不透明な現状、重要になるのは、業務も含めた構造改革です。コストをいかに削減し、収益を上げていくかは、絶対に不可欠な取り組みです。構造改革は、これまでも取り組んできましたが、次のレベルを目指さなければならない時期にきています。IMSだけでなく、三越伊勢丹グループ全体で取り組むことが重要です。
――構造改革におけるテクノロジーの役割とはどのようなものなのでしょう。
DXというと、リモートショッピングのような新しいチャネルづくりがイメージされますが、業務を変えていくことこそがDXです。そのためには、新しいテクノロジーが重要であり、モード2が主役でモード1が脇役のようなイメージですが、実はモード1も主役だと思っています。
――ガートナーでも、DXで重要なのはX(トランスフォーメーション)ですという話をよくします。デジタルは必要ですが手段であり、モード1でも、モード2でもかまいません。ビジネスの変革がまさに主戦場ですというお客さまが増えています。DXの具体的な施策を伺えますか。
短期的に痛みは出ますが、使用頻度の低いシステムを捨てるもしくは徹底的に塩漬けして、必要なシステムはモダナイゼーションします。その一環として、ビジネスプラットフォームと呼ばれる新しいプラットフォームを構築しています。ビジネスプラットフォームは、マイクロサービス化、自動化により、レガシーを生かし、納期やスケジュール、コストを抑えながら、新しいチャネルにも柔軟に対応できます。
これまでのIMSは、基幹システムの保守の会社というイメージで、運用コストのかかる、重い、遅いビジネスの典型でした。ビジネスプラットフォームの構築により、少しずつですが、IMSのイメージも変わってきたという声も耳にしています。
――レガシーを断捨離しつつ、コストを削減する取り組みはよく耳にします。ただし、削減されたコストを、アジャイル開発や新しいプラットフォーム開発など、ビジネスに直接貢献できるシステム開発にシフトし、成果を出している企業は多くありません。
ガートナーのバイモーダルのように、レガシーも含めてサービスを提供できるようになったのは強みです。IMSのビジョンは、攻めと守りのプラットフォームサービスをベースにイノベーションをドライブすることであり、システムの保守の構造改革が収益にダイレクトにつながります。
攻めとはスマートフォンアプリなどデジタル施策であり、守りとは保守だとイメージしがちですが、考え方によっては逆といえます。1億円の保守コストを削減すれば、新たな営業利益を出したともいえます。その方が、断然ビジネスに貢献できるかもしれません。新しいものにはどんどんチャレンジしますが、攻めと守りをバランスよく、両方やることが重要です。これこそトランスフォーメーションであり、この考えは社内にだいぶ浸透してきたと思っています。
――今後のCIOやシステム部門は、ビジネスの中でどのような立ち位置になると考えていますか。また、次の世代のIT人材にメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、業務を変えていくこと、新たなビジネスを作っていくことを一体化させていくことが重要です。そのためには、IMSのメンバーがもっとビジネスや業務に精通することが必要であり、グループ全体でITリテラシーを高めていくこも必要です。ビジネス、業務、ITでワンチームになることが重要です。
そのためには、デジタルと人の力を掛け合わせることができるプラットフォームサービスの最大化が必要です。それを武器に、社内はもちろん、社外も含めたイノベーションをドライブしていきます。重要なのはバリューで、協働と協創により、ともに悩み、ともに楽しむこと、挑戦や変化を恐れず、変わること、自律、自走で自ら考え、行動することです。これが大切にすべきIMSの行動規範であり、価値です。
IMSの社長になったときに、重たい、遅いイメージではなく、元気よく、活気ある会社、ICTで元気を創造する会社にしようと話しました。現在、だいぶ変わってきたと感じています。今後さらに、世の中の元気を創造するためにまい進します。
対談を終えて
IMSのように、企業グループのIT子会社は、もともと親会社の基幹系を主に担当していましたが、親会社がデジタル化の取り組みを加速するなかで、どのような役割を果たすのかが課題となっています。デジタル化には、新しいITスキルだけでなく、企業の文化や、人材のマインドセット、そしてビジネス部署との関係の変革が必要となるため、苦戦する事例が少なくありません。そうしたなかで、IMSが、デジタル化への対応にも果敢に取り組まれ、成果を上げておられるのは、社長の箕輪さんのブレないビジョンと、浪人時代の伯父様との生活などからくる、「和」を大切にする箕輪さんのお人柄があるからだと思います。とても元気をいただいた対談でした。
プロフィール
浅田徹(Toru Asada)
ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム バイスプレジデント
2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。
2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。
京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。
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