ミッションは日立造船の次の100年を支えるデジタル化を進めること――日立造船 常務執行役員 橋爪宗信氏:「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)
先端テクノロジーを活用することで、グループ全体の事業に関する製品や生産技術の高度化、新事業/新製品開発のスピードアップを目指す日立造船。ICTの活用で、さらなる付加価値化を図る取り組みとは。
現在のミッションは、日立造船の次の100年を支えるデジタル化を進めることです。具体的には2つの取り組みがあります。1つ目は日立造船の製品、サービス、そのものの価値を向上させることです。そのために日立造船ブランドの絶対優位性をさらに高め、市場での先見性や技術力、信頼性などの領域をデジタルで強化していきます。2つ目は日立造船という会社そのものの強化です。そのために、業務プロセスや生産プロセスなどをレベルアップしていきます。
日立造船にはサプライヤーが5000〜6000社あるため、設計データを生産からアフターサービスまで一気通貫でつなげることが難しいという課題があります。しかし技術革新が進むと、設計データをメタバース上に構築し、実際に試験、レビューをデジタルツインで実現し、手戻りも減り、生産性も向上できます。こうした状況を1年でも、2年でも早く進めることが必要です。デジタル化やRPAにより、すでに年間約5万時間の工数削減ができている実績もあります。
これまでの経験を生かして今後100年続く会社にしたい
――今後のCIOを目指す人たちに期待することをお聞かせください。
現在、経営戦略会議のメンバーとなっていますが、経営の根幹にはITのメンバーが参画するべきです。日本はIT人材がSIベンダーに集中しており、事業会社にはほとんどいません。そのためIT人材を育成するノウハウも、システム開発の生産性や品質を向上させる方法も持っていない状況で、大規模開発の方法やエンジニアリングの研究をしてきたような人材を事業会社で育成することは困難です。
そこでITベンダーやコンサルティング会社にIT人材の育成を依頼することになりますが、スキルは知識の取得だけでなく、実践、経験を伴います。ITスキルを持った経験者を採用し、事業会社の経営戦略にかかわることができる立場に据え、事業会社でも大規模開発の方法やエンジニアリングの研究ができる人材を育成できるようになります。
プログラミングだけではなく、人の育成とアーキテクチャ、方法論を考え、できるだけ内製化が可能な体制を確立することです。お客様に価値を提供する領域では、デジタル人材をできる限り自分たちで育成することも重要です。CIOがIT活用だけでなく、全ての経営戦略にかかわることが、今後の企業の未来、日本の未来につながるでしょう。
――これからのデジタル人材に期待することをお聞かせください。
これからのデジタル人材は、自分のキャリアをちゃんと考えてください。いまの若者は「将来こうなりたい」と口に出すことが少なくなったと感じています。私自身は、NTTデータに就社したときに「NTTデータの社長になる」と公言していました。自分のやりたいことを実現するためには、社内で偉くなることが必要で、偉くなることで、世のため、人のためにもなると考えていました。
いまはCIOの立場となり、会社での発言力が高くなりました。全ての人に社長になれというわけではなく、自分のキャリアのために、なるべき人物像を目指してほしいと思っています。
現在、人的資本経営が必要な時期にきているので、これからのキャリアをどうするか考えるきっかけを与え、実際考えてほしいと思っています。これは社員だけでなく、その上司や管理職、役員も含め、マインドセットを変えるべきです。自分のキャリアは一人称で考えてください。
それを感じながらキャリアを磨いてはどうでしょうか。個人的には2024年に還暦を迎えるので、残りの人生をもっと頑張り、日立造船の100年後に今かかわっていたいと考えています。
日立造船では新しい取り組みをどんどん進めてきましたが、来年2024年10月には社名変更を予定しています。Kanadevia(カナデビア)という新社名には調和をもって美しく「奏でる」という日本語と切り拓く「道」というラテン語が融合されています。これまでの経験を生かして、143年続いているこの会社を今後さらに100年続く会社にしていくためにも、ICT・デジタルを“奏でる要素(1パート)”として未来への道を創っていきたいと考えています。具体的には、10年後に日立造船(カナデビア)といえば「グローバルデジタルカンパニー」といわれることを目指したいと強く思っています。
対談を終えて
橋爪さんと話して強く感じたことは、自分の志を大きく描いて、それに向かって努力し続けることの大切さです。橋爪さんは、これまで常にそれを続けてこられました。対談の中で、大変なご苦労をされた話がいくつもでましたが、それらをことごとく乗り越えられたのも、橋爪さんの志と努力が周囲を動かしたからだと思います。そして、そうした実績が、橋爪さんに次々とやりがいのある新たな役割をもたらしました。
ポジティブ心理学の第一人者であるショーン・エイカー博士の有名な言葉に、「成功した人が幸せになるのではなく、幸せな人が成功する」というものがありますが、橋爪さんは、30年以上前から、それを体現してこられたように思います。目先の仕事を片付けることにのみ時間を費やしがちな自分との格差を痛感し、気持ちを新たにした対談でした。
プロフィール
浅田徹(Toru Asada)
ガートナージャパン エグゼクティブ プログラムリージョナルバイスプレジデント
2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。
2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。
京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。
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