第30回:キーエンス出身者が明かす、高業績セールスパーソンと低業績セールスパーソンの大きな違い:マネジメント力を科学する(1/2 ページ)
気を付けなければいけないのが、高いか安いかを決めるのは全てお客様で、売り手が決めてはいけない。
第27回:キーエンス流・少数精鋭で高付加価値を生む「潜在ニーズに気付く力」の鍛え方
第28回:キーエンス流「価値ある商品」を創り出す組織構造とは
第29回:営業利益率50%のキーエンスに学ぶ組織作り&サービス作りの在り方
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。
高付加価値経営や生産性の高い組織開発をどのように実現するかについて、ベストセラー『付加価値のつくりかた/一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』の著者、カクシン代表取締役CEOの田尻望さんと当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第3回です。(2023年11月16日(木)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:キーエンスに学ぶ!高付加価値経営はこうして実現する」)
ドリルを買いにきた人は、何を手に入れたかったのか?
マーケティングで「ドリルを売っているんじゃなくて、穴を開けることに対するソリューションを売っているんだ」という例えがありますが、さらに突っ込めば、顧客はその「穴を開ける」ことにまつわる感動やストーリーを求めている(子供の夏休みの宿題工作で板に穴を開けたい、など)のだと田尻さんは言います。
マーケティング上、ドリルを買いに来た人は穴の開いた板が欲しい。
「“ん? 本当にそう?”という話なんですけど。本当は“なんでそれが欲しいんだい?”ともう一段聞かなきゃいけない。穴の開いた板は物なんですよね。BtoCの場合、これがキーポイントです。BtoCの場合は全すべて感動がメッセージなんです」(田尻さん)
店員:「なんで今回、穴の開いた板が欲しいんですか?」
お客様:「ちょっと聞いてくれる? いや、実は息子が夏休みの宿題をちょっと手伝ってって言っているんだよ。親が多少なりとも手伝う以上、喜んでもらわないと」
店員:「なるほど。それならあっちに行きましょう。穴が開いたやつもあるんですけれども、こっちのほうがいいです。このへんのを作ったら息子さんは喜ぶんじゃないですか」
お客様:「えっ、めっちゃいいじゃないか!これをもらうよ」
このように買って帰ったとすると、このお客様はいくら使って帰るでしょう。
「そのために穴の開いた板が欲しかったんです。あるいは穴を開けるドリルが欲しかったんですよ。感動は全て人間関係で起こるんですね。“息子に誇りに思われる親でありたかった”“かっこいいパパでありたかった”、そのために数千円、数万円払っちゃうわけです。最高の体験ができる、と」(田尻さん)
例えば何百円か何千円かの原価で作られているなら、それに多少利益を乗せたとしても、売上は数千円かギリギリ万の位に乗るくらいでしょう。
でも大きな感動を与えてくれたり、死活問題に関わるようなお困りごとを解決してくれたりするなら、原価ではなくて別軸で数万円、もしかしたらもっと上の価値を感じて払ってもらえるということもありうるわけです。
せっかくの高額販売チャンスをみすみす自らダメにする販売員の話
田尻さんの著書、『付加価値のつくりかた』の中に結婚記念日の時のエピソードが出ているのですが、これが面白い。
「ちょうど私のスイート10(10周年)の結婚記念日にあった話です。私は子どもが3人いますから“結婚記念日の夜は無理だな、昼のデイユースで行こう”と考えました。原点回帰で、結婚式を挙げたホテルでお祝いをしようと。本当はイタリアンじゃなくて和食が良かったんですけど、電話でまずはイタリアンの値段を聞きました。そうしたら1人当たり5万円だと。“でもな、スイート10だしな”と思って“ちなみに和食かフレンチだったら?”と聞くと、“いや、田尻さま、すみません。そちらはちょっと高くなっておりまして、16万円するんです”と言われたんですね」(田尻さん)
こういわれたので田尻さんは、「なるほど、やめとこう」と思ったと言います。
「スイート10だったので、妻からいろいろリクエストがありまして指輪を買っていたので、もうその時点で7桁を超えていたんですよ(笑)。7桁を超えていたので正直なところ16万円、17万円は別に高いと感じていませんでした。“何かおすすめがあるかな”と思って、良いおすすめを提案いただいたら買うつもりでした。それなのに“少し高くなっておりまして……”と言われたのでやめました。これがもう本音です」(田尻さん)
せっかくのお客様(田尻さん)の買いたい気持ちを、この接客担当者は「すみません。そちらはちょっと高くなっておりまして」とわざわざ言ったことで消失させてしまったのです。
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