検索
連載

第30回:キーエンス出身者が明かす、高業績セールスパーソンと低業績セールスパーソンの大きな違いマネジメント力を科学する(2/2 ページ)

気を付けなければいけないのが、高いか安いかを決めるのは全てお客様で、売り手が決めてはいけない。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

多くの営業パーソンが見落としている視点

 「これは絶対皆さんにも気を付けてほしいのですが、高いか安いかを決めるのは全てお客様です。売り手が決めるなという。ちなみにお客様よりも高い価値感を持って、“いや、これはお買い得ですよね”と言うのは良いです。でもけっして自分の感性で“これは高額ですね”と言ってはだめです。良かれと思って言ったのかもしれませんが、特に今回の場合だと“あなたの結婚記念日に16万円を出す価値はない”と言われた気がしてしまうわけですよ」(田尻さん)

 よくよく考えれば、これはお客様に対して非常に失礼な話でもありますよ。

 高級車のレクサスを買いに来たお客様に、「燃費がいいので、こちらの車のほうがいいですよ」とは言わないですよね(笑)。

 「つまり、売り手側がお客様の価値観を勝手に判断して、“あなたはこのほうがいいですよ”と低い価値観で言うことは失礼なんです。でも多くの営業パーソンがそれをしています。“今回の新製品、ちょっと高いんですよ”と。“高いと決めるのはお客様なんだぞ、お前が決めるな”という話です」(田尻さん)

 お客様が価値を決めるので、絶対にその観点をこちらが教えちゃいけない。

 この話を田尻さんがコンサルティングパートナーにしたところ、「私だったら50万払わせますよ(笑)」と。

 「田尻さんがこの10年間、奥さんに苦労をかけてきたことを全部聞くじゃないですか。その全部を聞いて、これから田尻さんと奥さんとご家族が10年間、20年間ずっと幸せにいられるように、その日の全てを彩らせていただきます。これまでの10年間の全てを奥さんが許してくれて、これからの10年間が楽しみになるようにお部屋もホテルのスタッフの接し方も、全部プロデュースします。どうします?」と言われたら、「それは50万円払うかもな」と思ったと田尻さん。

 文脈が変わっているんですね。田尻さんはランチだと言っているのに、その人はプチ結婚式をしようとしてくれている。

 こうした提案について、どこまでやりたいかは田尻さんが選ぶわけなので、できること全部提案してくれたらいい。田尻さんだったら提案によったら50万円と言わず、もう数倍払う可能性はありますよね(笑)。

エルメスのトップセールスは「100パーセント断られる」?!

 「実は私の知人にエルメスのトップセールスだった方人がいて、その人がおもしろかったのは、断られるまでずっと売り続けるから、100パーセント断られるんですよ」(田尻さん)

 パンツを買いに来た人に「いいですね」と言いながら、「でも、これも買ったほうがいいんじゃないですか」とジャケットも買わせて、「でも、ネクタイも買ったほうがいいんじゃないですか」「サングラスもいるんじゃないですか」「ハットも」と言って、「ハットはいらんわ」みたいな。どこかで「いらんわ」と言われるまでずっと提案し続けるという。

 これがお客様へ提供できる価値の最大値をずっと探り続けるということです。

 「みんな、本当に欲しがっているものを買わせてあげていないんですよ。もっと買わせてあげたほうがいいですね」と田尻さん。

 皆さん、「推し」があるでしょう。

 例えば僕は本がすごく好きで、そうすると田尻さんが本を出したら買うわけです。田尻さんに本をどんどん出してほしいんですよね(笑)。

 好きな人が好きなメッセージを出してくれたり、小説もマンガもそうですけど、好きな世界観を提供してくれたりする時は買いたい。お金の限界はありますけど、ファンであれば新作をどんどん出してほしい、それを手に入れたい、買いたいという気持ちがあります。

 ファンマーケティングの専門家が、「ファンが新しく手に入れることができるものがなくなってしまうほうが罪だ」と話していて、「あっ、確かに」とピンときました。

 もちろんやりすぎて飽きられるのはだめですが、せっかく待っていてくれるのに新しいコンテンツが出てこないのは逆に罪だと、田尻さんの話を聞いて思い出しました。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る