第18回:対話、1on1。その前提としての心理的安全性が、なぜいま非常に重要であるか:マネジメント力を科学する
企業間の競争はもはや一個人で一生懸命考えているアイデアのレベルだとでは到底太刀打ちできず、「アイデアや知恵のコラボレーション」が必要だ。
第15回:メンバーが「やる気」をなくす上司の10の言動。モチベーションアップの前に、社員の意欲低下を防ぐことこそが必要
第16回:メンバーたちのやる気喪失の原因は上司にある! これを気付かせ、「学習性無力感」から脱出する方法
第17回:組織が社員のやる気を失わせる! 良い会社とダメな会社を見分けるには「社外規範」と「社内規範」をチェックせよ
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。
自社のメンバーたちがどうすれば生き生きと働き、自ら動く組織となるのかについて、ベストセラー『こうして社員は、やる気を失っていく』の著者、株式会社モチベーションジャパン代表・松岡保昌さんと当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする、第4回です。(2022年7月21日(木)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:社員のやる気を、こうして取り戻せ!」)
対話によって新たなアイデアを生み出せる組織か
前回紹介した「組織が疲弊していく会社」の15の問題点の中で、「ピリピリしている」「マイナス要因の犯人探し」といった、心理的安全性を作れていない組織はやはりすごく弱いものです。
なぜこの点が重要かというと、企業間の競争はもはや一個人で一生懸命考えているアイデアのレベルだと到底太刀打ちできません。「アイデアや知恵のコラボレーション」が必要なのです。
まったく違う見方をする人が話をすることによって、事業も商品・サービスも大きく変わります。
そういう意味で、これからの企業に必要なのは、「対話力」です。対話力によって最初に想定していた以上のものが生まれるということが本当によくあります。
相手が言ったことの意味を考えて、どう理解したかを相手に伝える。相手も「なるほど。そう受け取ったんだ」「それは私が言いたかったことなんだ」「いや、ここの部分はちょっと違うんだ」と応じる。こうした中から、それまでとは違うものが生まれてくるんですね。
こうしたコミュニケーションを行える大前提として、組織の心理的安全性が必須となるのです。
心理的安全性がゴールではなく、知のコラボレーションが生まれることがゴール
個別の上司の課題としては、こういう対話ができる上司を育てなければいけないし、組織の課題としては、こうした対話ができる企業文化を作っていかなければなりません。
ですから先端の会社が、真ん中にコーヒーやホワイトボードを置いて、自然に「知の共有」が生まれる物理的な空間を作るのもよく分かると松岡さんは言います。そしてこうした状態が生まれるためには、前提となる心理的安全性が必要です。
しかし、単に心理的安全性があればいいというわけではなく、本当の意味でそれを活用するには「知のコラボレーションが生まれている」ことが不可欠なのです。
「キーワードは“対話”です。1on1など、かたちは何でもいいですが、対話ができる会社であることが必要です。ブレインストーミングが当たり前にできる会社が強い」と、松岡さんは話します。
形骸化した1on1の危険性
最近1on1自体がマンネリ化してしまっている会社の事例をよく聞きます。
マネジャーが1on1でメンバーに「何かアイデアない?」と聞き、メンバーが「こうしたら良いのではないか」「こんな風に変えるべきではないか」とアイデアを出します。
これをマネジャーが上(部長や役員)に持っていくのですが、上はその意見を取り入れないことが続くと、メンバーは「意見を言ったのに実現されないじゃん。なんだ、その1on1」となって、逆に退職者が出ているという話が実際に少なからずあります。
当然、メンバーの意見を全部反映する必要はありません。それぞれの立場の違いなどから、「現場のメンバーはそう思っているけど、俯瞰してみると、実はそうじゃないほうがいい」ということも実際によくあります。
問題なのは、なぜ意見が取り入れられなかったかをフィードバックしていないことで、「見ている視座が違う」ということも対話によって伝えてあげなければいけないのです。
松岡さんが『こうして社員は、やる気を失っていく』を出した意図は、「コロナによって、企業に求められる変化適応の必要性が強くなった」ということ。もう1つは、コロナをきっかけに「変わりつつあった人と企業の関係が、一気に変わった」ということだと言います。
経営者、幹部、社員の皆さんは、ぜひ、それぞれの立場からこのことに対する認識と危機感をもって、自社の仕組みや制度を見直してみてください。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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