2024年にインサイトマーケティングが企業の戦略を握る理由(2/2 ページ)
インサイトを探ることなく、現象面としての行動だけを追っていては、成長戦略を考えることができない。
インサイトマーケティングの未来展望
インサイトは、ますます事業戦略やブランド戦略といった上流の戦略開発に活用されるようになる。そのとき、必要になるのが、以下の4つの「力」である。
1、問いを立てる力
2、俯瞰する力
3、先読みするシミュレーション力
4、選ぶ力
何よりも重要なのが、1つめの「問いを立てる力」だ。ビッグデータから本質的なニーズを導き出すにも、AIを活用するプロンプトを考えるにも、「適切な問い」なくして、「意味のある答え(解決策)」を導き出せない。
2つめの「俯瞰する力」とは、「インサイトから解決策(商品開発や広告コミュニケーション開発など)を生み出し、実行する」企業活動全体を俯瞰する力である。インサイトは、ある意味インプットであり、商品開発や広告といったアウトプットにつなげられるかどうか。
このインサイトを採用した場合、自社の技術資産やブランド資産を生かせるか、営業のモチベーションを高められるか、など活動全体を俯瞰してインサイトを活用する必要がある。
3つめは、「先読みするシミュレーション力」。例えば、この新製品がヒットして、競合がすぐ追随してきたときに勝ち切れるかどうか。採用したインサイトによって、戦う土俵が決まるため、技術的に競合より優位に立ち続けられるか、中期的に自社の研究開発力が生かせるか、など先読みする力が欠かせない。
また、今後のブランド拡張なども先読みしておく必要がある。例えば、「洗顔からボディソープ」へはブランド拡張しやすいが、「ボディソープから洗顔」は難しい。それは、洗顔のほうがボディソープより、肌にやさしく高品質なソープという連想があるからだ。これが先読みできていれば、まず「洗顔」のインサイト探索から始めるという判断ができる。
4つめは、「選ぶ力」。どの問いを選ぶか。候補に挙がってきたインサイトの中でどれが最も筋のいい戦略になるか、俯瞰して考え、先をシミュレーションして選ぶことになる。
これらの力がなければ、いくら消費者調査をしてインサイトを探索しても成果につなげられない。どれだけ精度の高いデータを解析しても、生成AIにインサイト候補や広告メッセージ案を出させても、どれを選んでよいか分からない。
インサイトは、今後ますます、事業戦略やブランド戦略といった経営課題を解決するためのものになる。インサイトを活用して成果を出すためには、データ解析やリサーチといった狭い範囲のスキルではなく、経営視点で考えられる力が必須になっていく。
著者プロフィール:桶谷功
株式会社インサイト 代表取締役
京都市生まれ。京都市立芸術大学を卒業後、大日本印刷でパッケージ・デザインのディレクションを担当。食品ラップの仕事でV字カット(特許)を開発。その後、世界最大級の広告代理店ジェイ.ウォルター・トンプソン・ジャパン(現VML)に入社。先駆的に開設されたばかりの戦略プランニング局に勤務。以降、クリエイティブと戦略の両方の経験を生かし、アカウント・プランナーとしてブランド・コミュニケーション戦略の開発に携わる。ハーゲンダッツ、シック、ディズニービデオなど、数々のNO.1ブランドの育成に貢献。シックのキャンペーンでは、2008年AME賞(Marketing Effectiveness Award 最も効果的なマーケティング活動に与えられる賞)で、ゴールド受賞。執行役員 シニア・アカウント・プランニング・ディレクターを経て、2010年にインサイト設立。著書に『インサイト』『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』など。
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