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「60歳からが人生の旬」──禅が導く“後半戦”の生き方改革ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

「西洋から東洋へ」「目に見えるものから見えない価値へ」、人生の前半で築いた外的成果を、後半では内的な実りへと変換していく。

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禅的キャスティング――今、ここに集中する

 話題はやがて、吉田氏自身が70歳で起業した理由へと移っていく。人生の後半において、なぜあえてリスクを取り、新たな挑戦に踏み出したのか。その背景には2つの大きなきっかけがあったという。

 1つ目は、マハトマ・ガンジーの言葉「My life is my message」に衝撃を受けたことである。自分の人生そのものがメッセージであるというこのフレーズに触れ、吉田氏はこう考えたという。自身の4人の子供たちが人生で苦労した時、「親父が70で起業したのだから、自分ももう少し頑張ろう」と思ってくれたらうれしい。言葉ではなく背中で語るという姿勢が、この一言に凝縮されている。

 2つ目は、「禅的思考」で人生を考えた結果である。禅とは、手放して今、ここに集中することだと吉田氏は説明する。ビジネスの世界では、ゴールから逆算するバックキャスティングがよく語られるが、吉田氏はそれとは異なる「禅的キャスティング」という概念を提唱する。北極星のような方向性を1つ定め、そこに向かって「今、ここ」を一生懸命生きる。目標のために今があるのではなく、「今、ここのために北極星がある」という考え方である。結果に支配されるのではなく、今この瞬間をどう生きるかを中心に据える。


未来を「今、ここ」に持ってくるZEN的キャスティング

 この文脈の中で、吉田氏はイチロー選手の言葉を引用した。「50歳までやると言っていたから45歳までできた。だから全然後悔していない」。高い目標を掲げたからこそ、そこに届かなかったとしても悔いがないという感覚がにじむ。また、スティーブ・ジョブズの「Journey is the reward」というフレーズも紹介した。旅路こそ報酬であるというこの言葉に重ね、「終着点は問題ではない。一瞬一瞬、その車窓を楽しむことが大事だ」と説く。

 人生の不変の真理として、吉田氏は3つを挙げた。人は必ず死ぬこと、それがいつかは分からないこと、人生は1回限りであること。この3つの事実を踏まえたうえで、絶対に手に入らないものとして「明日」「あそこ」「他人になること」を挙げ、「今、ここ、自分」という禅の「即今、当処、自己」の教えの重要性を強調した。今この瞬間、この場所、この自分に立ち返ることが、長い人生のどの局面でも土台になる。

身体で学ぶ――ZENネイチャーリトリート

 こうした考え方を頭だけで理解するのではなく、身体で学ぶ場として、吉田氏は「ZENネイチャーリトリート」を実施している。頭で考えすぎている日常をいったん手放し、自然の中で身体と心を解放して、仕事や人生を俯瞰することを目的としたプログラムである。座禅、サイレントウォーク、五感で自然を感じる瞑想などを通じて、参加者が口にする感想の多くは「清々しい」という言葉だ。

 「清々しい」という字は、さんずいに青と書く。水の本質は青であり、水によってさまざまなものが流されてすっきりする。本質に迫る時に自然と出てくる言葉が「清々しい」なのだと語る。思考のスイッチを切り、自然や身体を通じて自分の内側に触れることでしか見えてこないものがある。

人生の後半戦をどう味わうか

 最後に吉田氏は、静かだが本質的な問いを投げかけた。人生最後に懐かしむのは、会社員時代の役職でも名声でも銀行口座の残高でもなく、家族や友人と楽しく過ごした時間ではないか――というのである。

 そのうえで、師であるマーシャル・ゴールドスミスの言葉「BE HAPPY NOW」を引用し、「今まさに、この瞬間、このひとときを大切にすること」が人生100年時代を生きるうえで重要だと締めくくった。Aさんのように「ここで終わった」と感じるか、Bさんのように「ここから始まる」と捉え直すか。その分岐点は遠い将来ではなく、まさに「今、ここ」にある。

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