生まれ変わったハワイの名門ホテル【前編】老舗の伝統とITの融合(1/2 ページ)

ハワイに本拠を置くホテルチェーン最大手のアウトリガー。業界大手と張り合うべくITを駆使して業界の動きをキャッチアップ、コスト削減に成功した。さらにその勢いでグローバル展開を進めている。老舗ホテルの独自のIT戦略に迫った。

» 2008年08月01日 07時30分 公開
[Michael Ybarra,ITmedia]

 2006年のある日、アラン・ホワイト氏は外出先からホノルル近郊の自宅に車で戻ったとき、デジタル時計が点滅しているのに気付いた。地震がハワイ諸島を襲ったためだった。アウトリガー・エンタープライズ・グループのCIO(最高情報責任者)を務めるホワイト氏は揺れを感じなかったが、ホノルルは12時間以上に及ぶ停電に見舞われた。

 ハワイ州の地元ホテルチェーン最大手のアウトリガーは、短時間の停電と大規模災害に対応できる体制を整えていたが、準備が万全でなかったことを思い知らされた。同社の本社と州内11カ所のホテル(合計客室数約7600)は発電設備を備え、燃料を豊富に確保していた。だが、データ通信キャリアなどアウトリガーの契約先のベンダーは、十分な予備燃料を用意していなかった。停電発生から3時間後、アウトリガーの音声・データネットワークも停止した。

アウトリガーのCIO、アラン・ホワイト氏は、売り上げ管理システムの導入を進めている アウトリガーのCIO、アラン・ホワイト氏は、売り上げ管理システムの導入を進めている

 アウトリガーは現在、ビジネスコンティニュイティ(業務継続)を確保するために、サンガードの2カ所の施設(ペンシルベニア州フィラデルフィアとアリゾナ州スコッツデール)を利用するだけでなく、自前の高可用性環境も整備中だ。コロラド州デンバーにあるアウトリガーの集中予約センターは、冗長構成のGlobal Distribution System(GDS)と音声エージェントシステムを備えている。ハワイに構築された新しいエンタープライズストレージエリアネットワーク(SAN)は、08年内から米本土の施設にミラーリングされる予定だ。

 「今では、われわれの業務継続対策は大幅に向上している」とホワイト氏。地震の苦い経験が生きている。

ITを戦略的に取り入れて傘下はいまや195社に

 アウトリガーはこのところ目覚ましい変身を遂げている。同社はハワイでおなじみの老舗ホテルチェーンだが、01年9月11日に発生した対米テロ後のハワイ観光の落ち込みで大打撃を受けた。業績が低迷する中でアウトリガーのITシステムとビジネスプロセスは、社名の由来であるカヌーと同様にほとんど時代遅れなものになった。しかし最近では、同社は新たな波に乗ることに成功している。現在、同社は急成長を見せており、米国外の事業がビジネス全体の35%を占めている。傘下の企業は195社に上る。こうした再建の切り札となっているのがITだ。タイのコンドミニアムのレンタルからビジネスパートナー向けのホスティングサービスまで、技術はアウトリガーの多種多様な業務に貢献している。

 「技術はホテルビジネスのエンジンとなっている」とフォレスター・リサーチのアナリスト、ヘンリー・ハートベルド氏は語る。「しかし、このことは、IT部門が直面する課題がますます増えていくことを意味する。ホテルのCIOを務めるのが今ほど大変だったことはないだろう」

 太平洋の楽園ハワイではなおさらのことだ。

 「われわれは、業界大手がひしめく市場で戦わなければならない比較的小さな企業だ」とアウトリガーのデビッド・ケアリーCEO(最高経営責任者)は語る。「われわれはこのゲームで生き残り、さらには強みを発揮していくために、技術の有効活用に取り組んでいる」

 アウトリガーはこの取り組みに成功しており、IT支出の対売上高比率を、業界平均の約半分の2〜3%程度にとどめている。「われわれはほかのホテル会社よりIT活用がうまくいっている」とホワイト氏。「以前は、IT部門は純然たる間接サービス部門だった。だが今では、ビジネスサイドのパートナーとして活動している。われわれはプロフィットセンターへの転換を果たした」

成功したファミリービジネス

 1947年に建築家のロイ・ケリー氏が、ワイキキにアイランダーという全50室のホテルを設計、建設した。宿泊料は1泊7ドルだった。ケリー氏と妻のエステルは長年にわたってホテル事業を一貫して拡大、運営会社のアウトリガー・ホテルズは、ハワイ州の宿泊業界最大手となった。だが、その後もケリー氏は執務室を持たずに、同社傘下のホテルのフロントに席を置いた。宿泊客が荷物をエレベーターに入れるのを手伝う姿も見られた。

 あるときケリー氏はアウトリガーのホテルの1つで、息子で後継者のリチャード・ケリー氏とIBMの営業マンが話しているのを見かけて、同氏にメモを送った。「コンピュータは要らない」とそのメモには書かれていた。

 「幸い、リッチは耳を貸さなかった」とケアリー氏。

 電気工学の学士号を持つケアリー氏は、弁護士としてアウトリガーに入社後、ケリー家の娘と結婚し、94年にCEOとなった。アウトリガーはリゾート管理でも長年の実績を持ち、オーストラリアやニュージーランドなど太平洋に面した国々で事業を展開している。

 ケアリー氏は集中予約システム(CRS:Central Reservation System)の「Stellex」(創業者の妻の名前にちなんで命名された)を開発するためにコンサルタントのジョー・ドゥローシャー氏を雇った。ドゥローシャー氏はアウトリガーの初代CIOとなった。同社のITシステムの刷新で力を借りようと、同氏はコンサルタントとして、友人のアラン・ホワイト氏を米本土から呼び寄せた。

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