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「スマートなモノづくり」フォーラム2010 Springリポート:変革を求められる日本の製造業、不況を乗り切り“復活”を遂げるための鍵とは

長い間、日本の景気を支えてきた製造業だが、昨今の深刻な経済危機の中で、そのあり方が問われている。日本IBMとITmediaエグゼクティブが共催した「スマートなモノづくり」フォーラム 2010 Springでは、日本の製造業の復活に向けていかに変革していくべきか、その道しるべが示された。



「グローバル製品戦略」「グローバル・サプライチェーン」「リアルタイム経営」の3つの変革でスマートな経営を

 「これからの日本の基幹産業は大変厳しい状況に立たされている。経済環境の激変する中で、いかに付加価値をつけていくかが最大の課題だ」――。日本IBM 専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 コンサルティング&システム・インテグレーション統括の椎木茂氏は、3月9日に開催された「スマートなモノづくり」フォーラム 2010 Springの講演でこう語った。

yukexe.jpg 日本IBMの椎木氏

 上場企業約3200社を対象とした調査では、2009年度には約8割の企業が利益を確保できる見通しというが、その大半は売上規模を縮小する中での利益確保、すなわちコスト削減の結果、とりあえず利益を確保したという内容だ。中でも苦しい状況にあるのが、日本の基幹産業といえる製造業である。例えば、電機業界における主要メーカーの利益率を見ると、2007年度の水準からは遠い状況に陥っている。

 とはいえ、このような厳しい状況下でも成功している企業はある。そうした企業を分析していくと、変革の方向性として「グローバル製品戦略」「グローバル・サプライチェーン」「リアルタイム経営」の3つが挙げられるという。

 「製品開発においては、従来のメカ、エレキ、ソフトの組み合わせだけでなく、ネットワークとコンテンツを取り込み、製品にサービスとインテリジェンスを付加することが、次世代エンジニアリングの成功の要となる。

 今後“モノづくり”において鍵となるのは、資源の循環はもちろんのこと、ユーザーの声や潜在的要求を吸い上げ、新製品のアイデアとして設計・開発に取り込んでいく「情報の循環」も含めたPLM(Product Lifecycle Management)の最適化である。単に過去の情報を分析して課題を見出し、対策を講じるのではなく、近未来を予測してリアルタイムに手を打つスマートな経営を実行できる企業が、21世紀のこれからを支配していくはずだ」(椎木氏)

電気自動車の社会インフラ化に向け、新たな開発形態の実現を目指す

 苦境にある日本の自動車業界。その中で、再生への大きな鍵の一つと期待されるのが環境対応だ。三菱自動車工業は2009年6月5日の世界環境デーに合わせ、電気自動車「i-MiEV」(アイ・ミーブ) を発表し、世界中から注目を集めた。

wada.jpg 三菱自動車工業の和田氏

 i-MiEVは電気自動車なので走行中のCO2発生はゼロ。しかも静かで、キビキビした軽快な走行性能と日常生活での利用に十分な走行距離を備えるほか、家庭用100V/200V電源や急速充電などに対応した充電機能などにより、高い使い勝手を実現している。当初は官公庁などへの販売が主だったため、2010年3月末までの販売台数は1400台と、自動車としてみれば多くはないが、4月からは日本国内で一般向け販売がスタートし、2010年度後半には欧州での販売に踏み切る予定だ。コンビニなどへの充電ステーションの設置といったインフラ整備も始まっており、今後の販売拡大が期待される。

 i-MiEVをはじめとする電気自動車は、今後さまざまな展開が考えられている。例えば、電池残量のなくなったほかの車両に出先で充電する「助っ人EV」などは、すでに試験運用が開始されており、電気自動車のネットワーク化の端緒ともいえる存在だ。開発本部 EV・パワートレイン システム技術部 担当部長の和田憲一郎氏は、「電気自動車は将来、単なる移動手段や、環境に貢献する存在というだけでなく、社会インフラの一部になっていくのではないか」と語っている。

次世代エンジニアリングの“あるべき姿”を目指したPLMソリューション

 自動車業界では、本格的な電気自動車時代へ向け、開発形態の大きな変革が求められている。そのためには、IT環境も対応していくことが必要だ。PLMソリューションは今後、どのような姿になっていくのか。IBMは、次世代PLMソリューションの“あるべき姿”を求め、自動車メーカーの経営層と広くディスカッションしてきたという。

hirasaka.jpg 日本IBMの平坂氏

 「さまざまな業界のCEOからヒアリングした結果、業界ごとの変革に対する成功の割合は、自動車業界が最も大きく、次いでエレクトロニクス業界だった。製造業はこれまで変革が進んでいなかったというのが現状」と、日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業 ストラテジー&トランスフォーメーション R&D イノベーション・サービスの平坂義広氏は指摘する。

 しかし、電気自動車の市場は急速に拡大しようとしている。構造も大きく変わり、今までの自動車の常識を破るような形状や性能、ビジネスモデルが次々に登場している。その時代に対応していくためには、自動車メーカーの“モノづくり”も、大きく変わっていかねばならない。これまでの改善の延長線上ではなく、革新的な変化が必要だ。

 「革新的製品を早期に市場投入できるようにするためには、アメーバのように変わっていける開発プロセスが必要である。GIE(Globally Integrated Enterprise:グローバルに統合された企業)へと変革し、双方向に繋がるしくみを利用した未来型エクスペリエンスを創出して、知のネットワークを構築していかねばならない。

 IBMは、この知のネットワークを軸に「つながる製品群」や「真のデータ一気通環」のソリューション群を用いて、スマートな新たな価値の創生に協力していきたい」(平坂氏)

「最短距離経営」で急成長を遂げた三星電子から学ぶ

 2000年から2009年にかけての10年間で売上高3倍を達成、今や世界トップの電機メーカーとなった韓国の三星電子。2009年の連結売上高は約136兆ウォン(約10兆8200億円)で、韓国の2008年度国家予算である約257兆ウォンと比較すれば、その規模のほどが分かるだろう。製品ごとのシェアにおいても、薄型テレビや液晶モニタの売上高は世界1位(米DisplaySearchの世界TV出荷調査レポートより)、液晶パネルやDRAM、NAND型フラッシュメモリなどの部品もトップシェアを誇り、ブランド価値調査でも年を追うごとに順位を上げている。英Interbrandの調査では、「Samsung」は今やソニーをはじめとする日本メーカー各社を大きく引き離し、2009年にはAppleをも抜いている。

oguro.jpg 三星電子の小黒氏

 この三星電子で常務を務めていた小黒正樹氏は、その強さの秘密を「最短距離経営」と呼んでいる。小黒氏は、かつてソニーで製品開発をしていたが、後に三星電子へ移ってデジタルガジェット製品のプロダクトデザインなどを手掛けた。そして退職した後、「外に出てみれば、とんでもない会社だと気付いた」と語る。

 最短距離経営を構成する要素は、人材、製品、そしてイメージづくりだという。人材については、軍隊よりも厳しいと言われる新人教育で会社への忠誠心を徹底的に叩き込まれ、その後も昇進すればするほど研修が増えていく。語学研修プログラムはグループ会社が持つ山中の施設で3カ月間におよぶ缶詰め生活や、外国で自立した生活を1年間続けることを強いられる「地域専門家制度」もある。

 常に高い目標設定を求められ続けるとともに、スケジュール遅れには大きなペナルティが課せられるなど厳しい「ムチ」がある一方で、事業部長には非常に大きな権限や資源が与えられ、利益が出た事業部には従業員全員に大きなプロフィットシェアが与えられるといった「アメ」もある。

 製品開発は「顧客第一、市場第一」であり、世界各地のさまざまなニーズに対し、最も迅速に商品化できるプロセスを築き上げている。なぜなら、三星電子は製品バリューチェーンの両端であるコア技術とマーケティングに注力しているからだ。コア技術は、薄型テレビ用パネルやDRAMなど、最終製品になくてはならない必要不可欠なキーパーツであり、大量生産が可能なため、自社製品に採用した場合他社と比べて価格競争で優位に立てる。

 結果として、キーパーツそのものと最終製品両方で、莫大な利益を上げている。

 また、自社技術を世界標準化する提案を準備しながら、もし他社提案に決まってもすぐに準拠できる方向で研究開発を進めているため、多くの標準に対応していくことが可能な戦略をとっている。

 それと同時に、世界中の一等地に広告を出したり、韓国代表の五輪選手たちを強力にバックアップしたり、中国やアフリカに対して現地支援を積極的に行うなど、数々のブランド強化策を打ち出している。このマーケティングと市場第一の製品戦略が、人材に裏打ちされて強みを発揮しているというわけだ。

 とはいえ、三星電子にも弱点がないわけではない。例えば、組織改編が頻繁にあるため、落ち着いて先行開発に取り組むことは難しい。また、韓国の中で非常に強大な勢力を誇るだけに、部品メーカーなどに人材が集まらず、技術の裾野が育ちにくい。小黒氏は「三星電子に立ち向かう日本企業としては、こうした点に留意して対抗していくべきではないだろうか」とエールを送った。

組み込みソフトのグローバル開発を支えるeSLM Innovation Service

 近年のモノづくりにおいてはソフトウェア技術、いわゆる組み込みソフトウェアの技術が欠かせない。しかも今後は、冒頭に椎木氏が指摘したように、ネットワークコンテンツを取り入れた、高度な組み込みソフトが必要となってくる。一方で、開発環境はグローバル化し、コストや市場対応などの観点からオフショア開発が求められている。そのような環境において、製造業は、どのようなソフトウェアエンジニアリングを実践していくべきなのだろうか。

 グローバル開発において、最大の問題点は言語の違いによるコミュニケーションの困難さだ。さらに、同じ国、同じ企業の中での開発とは異なり、オフショア先は暗黙知が伝わりにくい環境であるため、品質管理、要求仕様や設計仕様の共有が難しいといった課題がある。

hirohashi.jpg 日本IBMの広橋氏

 日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業 アプリケーション・イノベーション・サービス eSLM Innovation Serviceの広橋さやか氏は、その課題に対する成功要因として「標準の開発プロセス」「コラボレーションを支える開発環境」「MDDベースの実機レス開発」の3つを挙げ、それを実現するにはガバナンスとパラダイムシフトが必要だと説明した。

 IBMでは、世界各地の拠点から最適な拠点を選択してシステムなどの開発を実施している。日本IBMなら中国やインドが主な開発拠点だ。複数国で開発を分担することにより、リスク偏在を避けるのが目的という。IBMの社内システムも同様にオフショアが進んでおり、日本IBMでは2008年末の時点で65.7%が中国を中心としたオフショア開発でまかなわれているという。このようなオフショアを実現するポイントが、先に挙げた3つの要素である。

 ソフトウェア開発の標準化にIBMは昔から力を入れてきたが、ここ数年間さらに体系を整理してきた。IBMにはそうしたベストプラクティスの集大成がある。コラボレーションにおいては、管理機能だけでなく使い勝手も高く評価されている開発環境「Rational Team Concert」がある。さらに、分析・設計からテストまでソフトウェア開発の全行程に対応し、モデル駆動型開発をサポートするモデリングツール「Rhapsody®」などのツール群が、MDDベースの実機レス開発を実現する。

 「製造業における組み込みソフト開発は、まだまだ変革の余地があり、これらeSLM(embedded Software Lifecycle Management) Innovation Serviceは、その変革を支援することが可能だ」と広橋氏は強調した。

IBM、Rational Team Concert、Rhapsody、ibm.comは、世界の多くの国々で登録されたInternational Business Machines Corp.の米国およびその他の国における商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれIBMまたは各社の商標である場合があります。現時点でのIBMの商標リストについては、www.ibm.com/legal/copytrade.shtml(US)をご覧ください。


提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2010年5月14日