イノベーションを加速するのは「知恵の和」――企業内メディア「EGM」トレンドフォーカス(1/2 ページ)

社員自身による社員のための企業内メディア「EGM」(Employee Generated Media)を企業内部でのオープンイノベーションにつなげようとする動きが始まっている。非営利コンソーシアムのenNetforumでは、社内SNSや社内ブログを活用する先進企業の担当者が、運用上の課題を解決するための議論を行ってきた。

» 2008年06月12日 12時29分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]

群集の叡智を企業内でも利用するための試み

 ネット上の百科事典であるウィキペディアやQ&AサイトのOKWaveを始め、オープンソース、クラウドソーシングなど、インターネットの世界では『群集の叡智』が次々と生まれている半面、企業内部ではそれに向けた取り組みがあまりなされていなかった。「企業内のクローズドなイントラネットで群集の叡智を利用できないかというイノベーティブな取り組みがEGMの本質」と語るのは、NECの企業ソリューション企画本部およびサービスプラットフォーム研究所に所属し、EGM-WGの主査を務める福岡秀幸氏だ。

 群衆の叡智とは、ジェームズ・スロウィッキー氏のベストセラー「The Wisdom of Crowds」(日本でのタイトルは「『みんなの意見』は案外正しい」)で語られた仮説で、特定少数の権威を持った人が決めたことよりも、多くの人の意見を集約した方が利用価値の高い情報になり、誤った情報は自然に淘汰されて正しい方向へと向かうというもの。個々人の知識や思考が、Webの普及のおかげで他の人たちと「緩やか」に結びつき始めたことから、これからの10年はこの仮説をめぐって、ネットワーク上での試行錯誤が活発に行われ、SNSやブログはその初期の道具との見方もある。

 群集の叡智を経営や事業の意思決定に活用しようと試みる企業は、社内SNSや社員ブログなどを積極的に導入し、社員に自由なコミュニケーションを促すことで、企業内にオープンなイノベーションを起こそうとしている。

 だが、「その実現にはいくつもの壁を乗り越える必要がある」と指摘する福岡氏は、システムやツールを導入したが、みんなが使ってくれないという悩みから始まり、重要な情報が見つけられない、情報がどのように活用されているのかが見えないといった問題が立ちふさがるという。

社内SNS・ブログ導入企業が越えてきた壁

 また、自由かつ自発的に情報発信させることで生じるメリットとリスクは表裏一体となる。社員の能力が可視化し誰がどんな情報に詳しいかが分かり、組織と階層を超えて社員同士がつなが、経営課題に対する意識が高まるなどのメリットがある半面、情報漏えいや、誹謗・中傷、公序良俗違反、著作権侵害、経営や事業への批判的な発言などのリスクもあるという。

 さらに福岡氏は、「ブログを書いている暇があったら仕事をしろ」とか、「他部門と意見交換するときは上司を通せ」といった中間管理職の理解の不足や、成果主義によって重要な情報は個人が抱え込んでしまう弊害も考えられ、EGMでの活動を企業がどのように業績評価に結びつけるかが今後の課題と話す。

セクショナリズムを避け社内ネットワークが強化

 社内SNSや社内ブログを導入し、一定の成果をあげている先進企業の事例からは、それらの問題に対し試行錯誤しながら取り組んでいる実態が見て取れる。

 NECでは社内SNSの「イノベーションカフェ」を2004年9月に立ち上げ、グループ内15万人の誰もが活用できるようにしている。07年3月現在の閲覧者数はおよそ17000人、投稿者数は2200人に達する。「ユーザー参加型の運営を心がけ、ボトムアップによるクチコミで利用者が増えていく方法をとった。最近ではトップマネジメントも参加するようになり、組織やプロジェクトでの業務利用が急増している」(福岡氏)という。

 また、NTTデータは06年4月に社内SNS「Nexti」を導入。05年に立ち上げた行動改革ワーキンググループが、セクショナリズムを排し、仲間の知恵と力を合わせることをテーマにそれを具体化する1つの施策としてSNSを選択した。開始後、特に周知や斡旋もせず、クチコミで広がり、現在の登録メンバー数は約6200人。最低3日に1回はログインするアクティブメンバーは1700人と活発で、コミュニティーは800を超え、日記のエントリー数は1日あたり100〜150件に上る。

 組織を超えた情報交換や、新たな人脈作りによる既存のネットワークの再構築・強化が図られ、問題解決への支援、社内ロールモデルの発見、アンオフィシャル段階でのアイデア共有などにつながっているという。

 「あえて実名制にすることで、個人のカラーで語ることを重視するとともに誹謗中傷の防止も狙った」と話すのは、同社のビジネスイノベーション本部に所属する中沢剛氏。運営側はでしゃばらず、最低限のルールで自由に活用してもらい、リラックス感を大事にしているという。

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