富士通の山本正己新社長が7月9日に自らの経営方針を発表した。業績回復の見込みが消極的だったことについて、僕の考えを記す。
7月9日、富士通は山本正己新社長が自らの経営方針を発表した。僕の感想だが、基本的に野副州旦前社長が示した内容とドラスティックな違いはなかった。もっと正確に言うなら、彼よりはるかに消極的な目標を示したにすぎない。
日立製作所などライバル各社がもう少し踏み込んで業績回復の見込みを明らかにしているのと比べると、明らかに慎重だ。なぜ富士通の山本社長がこのような慎重な見通しを示したのか僕の考えを記す。
売り上げの見通しを2010年度で4兆8000億円と山本社長は予測した。09年度の売り上げが約4兆6800億円だったので、成長率はわずか2.5%の増加にとどまっている。ちなみに、日本政府による日本経済の成長見通しが名目3%なのでそれを下回っている。
同社の場合、海外における売り上げが37.4%を占めているので、OECDの世界経済の成長見通し約4%を参考にすると、海外でもほとんど伸びない見通しということになる。
事実、同社の見通しでは4兆8000億円に対し、海外の売り上げは1兆8000億円(37.5%)とほとんど成長しない。
ただし、この話は少し納得できない話が含まれている。野副元社長は、IAサーバの販売を2012年までに50万台にすると発表していた。今回もその話に山本社長は触れ、2010年度に現在25万台程度の販売台数を2010年には40万台にすることを明らかにした。その差は実に15(40−25)万台、山本社長の話では、IAサーバが1台売れるとその4倍の売り上げ波及効果があるとしているので、15万台×5万円×4の式が成り立つはずだ。
そうなると、大方300億円の増収効果が期待できるはずだ。もしそうなら海外で売り上げの増加が期待できる。確かに、海外売り上げの増加は517億円と記載されている。計算が合わないではない。しかし、そうなると、国内のIAサーバの成長が全くないということなのか。
山本社長の示した資料では、国内販売に関しては5万台の増加となっている。先程の計算式を当てはめると、少なくとも100億円(5万台×5万円×4)の増収効果が期待できるはずだ。その利益はいずこへ行ったのだろう。IAサーバの伸びは国内、海外どちらなのかは謎のままだ。山本社長が明らかした経営方針の柱の1つ「大胆なグローバル化への取り組み」は果たしてどうなってしまったのだろう。
今回の山本社長の経営方針説明会で最も注目すべきは、同氏がクラウドコンピューティングに重点投資を行うと発表したことだ。昨年、富士通は日本を含め、世界5カ所に「トラスティッド・クラウド・コンピューティングセンター」を開設すると発表した。今回の発表では新たに中国にもセンターを開所するようだ。このようにおよそ1000億円の金銭投資に加え、人的な面でもさらに増強するとした。
現在は100人程度しかいないクラウドスペシャリストを2010年度中に1000人養成するとした。
山本社長はさらに、クラウドへの転換が今後急速に進むとし、発表資料では具体的な数字を挙げなかったが、インフラ化するクラウドコンピューティング向けの販売やクラウドインフラをベースとして新しいビジネスが今後富士通の売り上げの中に占める割合が増加するとした。
さらに、7月10日、富士通はマイクロソフトとクラウドコンピューティング分野で事業提携をすると発表した。提携内容は明らかになっていないが、昨年10月マイクロソフトが発表した「Windows Azure」を富士通が世界5カ所で展開するクラウドコンピューティングセンターで、サポートする模様だ。
記者会見で僕はクラウドコンピューティングで先行している富士通が今後、クラウドに関して具体的な戦略を持っているのか質問した。もちろん、それまで記者会見の中で、山本社長が再三クラウドコンピューティングを経営の柱の1つとして重視するという話をしていることを踏まえてだ。その回答は驚くべき内容を含んでいた。
「クラウドへの転換は今後急速に進む。富士通でも今後2、3年以内に売り上げの30%前後、具体的には1兆3000〜5000億円程度がクラウド関連に移行する」
この回答は山本社長がクラウドの驚異に真摯に取り組もうとしている証しだと僕は考えている。
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明治学院大学 経済学部准教授