景気が回復しても、元のビジネスに戻る訳ではないという、ビジネス・エグゼクティブ。CIOたちも「IT組織も元に戻らない。何らかの変化が必要である」と認識。2011年は新しいIT業界への第一歩を踏み出す年になりそうだ。
この原稿は、わたしが主催する「Gartner EXPセミナー特講 2011」の開催直前に執筆しています。日本では、「特講」と呼ばれる合宿形式のオフサイトセミナーですが、グローバルでは、「CIO Forum 2011」と呼ばれて世界各地で開催されています。
世界各地で開催されているということは、全世界共通のテーマを持っています。今年は、「Creative Destruction:創造的破壊」というのが世界共通のテーマです。読者のみなさんは、創造的破壊と聞いて何を連想しますか?
創造的破壊という言葉は、オーストリア人の経済学者シュンペーター(1883-1950)が言った言葉です。シュンペーターは、当時の(古典的)経済学で取り扱っていた最適配分や均衡よりも、企業家によるイノベーションがもたらす動的な不均衡こそ経済の正常な姿であり、経済理論と経済活動の中心に位置付けるべき現実であると説いたそうです。
凄く簡単に説明すると、静的(変化の無い)な市場の中でパイの食い合いや、需要と供給のバランスを、色々とこねくり回しても、市場そのものが大きくなることはない(経済は発展しない)。それよりも、秩序良く保たれた市場を破壊して、より成長した経済圏を作り出すことを論じた方が建設的だ。そして、既存の秩序ある経済圏をぶち壊す人こそ企業家であり、その活動の中心がイノベーションであるという。
イノベーションとは、新たに何かを作り出すことなのだから、「破壊的創造」ではないのか? と聞かれたりしますが、こういう語源が解れば、まずは、企業家が秩序を破壊することが主なのですから「破壊的創造」と間違うことはありません。
さて、わたしどもガートナー エグゼクティブ プログラムが、世界共通のテーマとして、「創造的破壊」を掲げているのは何故だと思いますか。世界的には、2008年に世界同時不況に陥ってから、世界的には昨年から徐々に景気回復傾向にあることが背景にあります。
前回、前々回とこのコラムでご紹介した「CIO Survey」の中に興味深いデータがあります。図で示したデータは、2009年末に実施した「CIO Survey 2010」への回答を元に作成したグラフです。
2010年に向けて徐々に景気回復傾向が顕著になるにつれて、「景気が回復しても、元のビジネスに戻る訳ではない」というビジネス・エグゼクティブからの声を受けて、CIOたちも「IT組織も元に戻らない。何らかの変化が必要である」と回答したCIOが、全体の50%で、「元に戻る」と回答したCIOが36%しかなく、何らかの変化を予想したCIOの方が多かったのです。
ガートナー エグゼクティブ プログラムは、2010年の1年間で世界中のCIOたちが、どのように変化するのかを世界各地にいるアナリストや、わたしの同僚たちで調査・研究を続けてきました。そして、Globalにいる多くのCIOたちが、IT部門の役割や能力を変化させるために、いろいろな施策を打っていることがわかりました。
日本で、こんな話をすると、「それは、Globalでの話であって、日本には日本のやり方があるし、日本の経営者はITを分かろうともしないから、CIOやITが何をしようとしても無駄だよね」という言葉が異口同音に聞こえてきます。 このような声は、ITをコモディティとして捉えている企業にお勤めの方々からの声ではないかと思われます。そして、そういう企業に勤めている人は、往々にして「わたしたちの仕事は、あくまでITでビジネスを支援することであり、ビジネスそのものに変化を与えたり、ましてやITを用いてビジネスをリードしたりする役割ではない」とも言います。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授