製品特性に焦点を当てた従来のマーケティングは時代遅れになってきている。これからは、消費者の時間や関心に焦点を当てたマーケティングが有効という。「顧客の時間的価値」を最大化するには。
この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。
この要約書から学べること
現代人は皆、時間に追われています。多忙なために、企業のいろいろな広告や販売活動を無視していきます。著者のエイドリアンC・オットは、膨大な研究を行った本書の中で、この問題とビジネスにもたらす影響を検証しています。そして、消費者がますます時間的余裕を失っているという事実を、売上を向上させる支柱に変えるという革新的な手法を使って提案しています。また、読者の時間的制限を意識し、各チャプターの要点を「2分間で分かるまとめ」にまとめています。顧客の時間をセーブし、問題を抑えながら売上を向上させるためのタイムリーなアドバイスと新しい手法を学ぶことができる、経営やマーケティング担当者などにお勧めの良書です。
「マーケティング」とは、自らの提供する商品やサービスを求めている顧客に届ける事が目的です。しかし、現代に於いて、類似の商品やサービスが世の中にはたくさん溢れ、いわゆる供給過多になっています。
それゆえに、顧客はいつでもどこでも自分の求めているモノを手に入れることができる環境にあるため、製品特性ばかりを強調した広告には見向きもしません。そればかりか、売り込みをかければかけるほど遠ざかる傾向にあることも間違いありません。「時は金なり」ということわざがありますが、現代人にとってまさに、これは誰にでも当てはまる事だと思います。だからこそ、今、「マーケティング」に求められているものは、顧客の時間に最も配慮しなければならないということです。言い換えれば、顧客が自らの貴重な時間と交換するだけのメリットを訴求していかねばなりません。時代は今「時間」が、キーワードなのです。
本書では、そうした顧客の時間の観念をどのようにビジネスに生かして行ったらよいかということに焦点を当てています。これからのビジネスの大きなヒントがここには隠されていると思います。
消費者は今、あまりにも多くの種類の製品の中から選ばなければならず、顧客ロイヤルティは低下しています。さらに、現代人の生活は多忙を極め、それによって広告やマーケティングを使って顧客の関心を引くことが難しくなっています。顧客はますます自分の貴重な時間を守ろうとしており、あからさまな商業主義に耳をふさいでいます。
メディアが溢れたモバイルとマルチタスクの世界で、企業は消費者の関心と時間に狙いを定め、それらを手に入れなければなりません。Ty社のビーニー・ベイビーズという、とても人気のあるぬいぐるみを例に考えてみましょう。
ビーニー・ベイビーズは徐々にガンツ社と競争をするようになりました。ガンツ社はウェブキンズという、似たようなぬいぐるみを製造していますが、Ty社の製品にはない特典が付いています。それは、ぬいぐるみのオンラインアバターです。Ty社のブランド名は有名ですし、価格も手ごろで、さらに強力な流通経路も確保していました。その上、ウェブキンズに対抗するため、「ビーニー・ベイビーズの2.0バーチャル世界」を作り出しました。しかし、Ty社はウェブキンズに勝つことはできませんでした。これは、ウェブキンズで遊ぶ子どもの親が、オンラインで遊ぶ時間を制限したため、ビーニー・ベイビーズで遊ぶ時間が無くなってしまったことが原因でした。
マーケターは、顧客の好みやブランド認知度、または製品満足度よりも、顧客が使える時間について心配するべきです。顧客の増え続ける時間制約や関心の薄れを分析するには、系統的で局所的な枠組みが必要です。新規顧客の「時間的価値の革新」アプローチが、消費者の時間や関心を最大限活用する上で役に立ちます。この理念は次の重要な問題に答える事ができます。
企業は、消費者の注意をそらすもので溢れた世界でどのように製品を売ることができるのか? 顧客の時間的価値アプローチを使ってどのようにチャンスを生み出せるのか? どうすれば顧客を獲得できるのか? 競争が激しい中、顧客を維持する最善の方法は? このような問題を解決することで顧客の選択肢や時間の概念を知ることができ、それに応じた戦略を構築することが可能となるのです。
数年前から、「売り込みの匂い」を消す営業方法が登場し、もはや現在それは当たり前のことになっています。営業は努力と情熱と言われていたのは景気が上昇している時の事であり、景気低迷の現在において、顧客は自分にとって本当にメリットのある物、その価値を理解したときにこそ購入意欲を見せます。その「価値」が現在に於いては時間に移り変わってきているということなのでしょう。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授