【第4回】現代のコミュニケーション企業はどうあるべきか?:Web2.0時代に挑む広告代理店
2006年3月、広告代理店のアーノルドは3カ月足らずで組織体制を一新し、新体制を「アーノルド2.0」と銘打った。CIOは、プロセス整備に立ち上がった。
2006年3月、パム・ハムリン氏がアーノルドのボストン本社社長に、ピート・ファバット氏が同最高クリエイティブ責任者に任命された。両氏は3カ月足らずで組織体制を一新し、新体制を「アーノルド2.0」と銘打った。
「ビジョンとその基盤となる組織原則の定義を始めた。だが、その作業はまだ進行中だ」と、ハムリン氏は話す。
実は、アーノルドは数年前からビジネスのやり方の見直しを進めていた。例えば2003年には、広告代理店としては珍しく各部門(デザイン、ディレクション、インタラクティブ、プロモーション)ごとに損益を算出することをやめ、全社の損益計算書だけを作成するようにした。
新生アーノルドはこの試みを推し進め、さまざまなクリエイティブ部門を4つの部門横断型チーム、つまり「トライブ」に集約した。スタッフはそれまで縦割りの部門に分かれていたが、今ではチームに所属し、違う部門にいた専門家が連携しながら、お互いに創造性を刺激し合っている。
そうしたチームの1つが「ヒューマンネイチャー部」だ。このチームには人類学者、心理学者、認知科学者が加わり、異分野の専門家と共同で、人がどのように行動し、どうメディアに反応するのかを把握することに取り組んでいる。
「ほかの多くの広告代理店は、非常に分権的な部門制を採用している。部門ごとに担当社長を置き、損益計算書を作っている。しかし、それでは社内に壁ができてしまう。アーノルドでは、今ではクリエイティブ担当者はすべてトライブに属し、チームとして総合的に問題解決するようにしている」と、ハムリン氏は説明する。
「クライアントの課題には、360度の視点から取り組むことを心がけている。そうすることが、より良いアイデアをより迅速に生み出し、成果をもたらすことにつながる。アーノルド2.0は、『現代のコミュニケーション企業はどうあるべきか』という問いに対するわれわれの答えだ」
インフラからプロセス整備へ
同様に、副社長兼ITディレクターを務めるグレッグ・フォルサム氏は、IT部門を次のレベルに引き上げようとしている。アーノルドにはインフラはあるが、プロセスが整備されていないというのが同氏の認識だ。
「前任のCIOは、幹部らとあまりコミュニケーションを取っていなかった。これは問題だった。独り善がりに陥って技術を押し付けることにならないように、やり方を変えなければならなかった。幹部側の声に耳を傾け、どんなツールが必要とされているかを把握し、欠けているものを提供することが肝心だ。
「技術に詳しいだけでなく、使う人のことを理解できなければならない。彼らは、技術の細かいことについては気に掛けない。彼らにとって大事なのは、それが役に立つかどうかだ」と、フォルサム氏は言う。
フォルサム氏はかつて、CFOの直属だった。アーノルド2.0では、オペレーションディレクター兼マネージングパートナーの直属だ。
「そのCFOはIT活用に必ずしも消極的だったわけではない。だが、財務的な影響を受けて、プロジェクトを延期したことがよくあった。人的生産性の観点からは、そうしてはならなかったのだが・・・・・・」と、フォルサム氏は振り返る。
アーノルドは最近、初めてIT計画の立案を支援する技術委員会を設置した。フォルサム氏は技術に関心を示した幹部らに、どんなツールが有益なのかについて意見を求めるようにしていた。このように経営幹部との相談や協議の場を制度化したのである。
「例えば、プロジェクトの予算について話を聞く。そうすることで、どんな技術を導入できるかがはっきりする。“水晶玉”は持っていないものの、こうした場でのコミュニケーションを基に、今後何が必要になるかが分かる。また、『ワウファクター』を加味して予算を立てている。ワウファクターとは、競争優位をもたらすツールだ」(フォルサム氏)
例えば2006年、新しい分析担当グループが統計解析ツールとデータ可視化ツール(SPAAとXcelcisus)を購入したが、その費用は当初、予算には含まれていなかった。フォルサム氏が分析担当グループと協力し、次年度に向けた先行投資資金として事前に確保していたからだ。
「分析担当グループがある日、ランチミーティングをアレンジして、どんな取り組みをどのように行っているか、それがクライアントにどんな価値をもたらしているかを、わたしのグループに説明してくれた。その内容は経営幹部にも歓迎された。わたしはほかのグループともこうした情報交換のミーティングを行っていこうと考えている」と、フォルサム氏は言う。
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