基幹システムに新しい息吹を【前編】:老舗ワイナリーに魅せられたCIO(2/2 ページ)
コーベルのCIO、ロバート・バーンズ氏は、19世紀創業のワイナリーである同社に、21世紀のITを取り入れた。ERPプロジェクトの迷走とBIシステムのトラブルに終止符を打ち、同社の発展に寄与したそのノウハウとは?
すべての工程でIT化が
ビンテージワインは価値があるが、古くなった技術はそうではない。ワイン造りは農場から始まるものだが、ぶどう栽培からボトル詰めまでのすべての工程で、ITがますます利用されるようになってきている。
ワインビジネスは競争が激しい。ニールセンの調査によると、大手スーパーマーケットでは、ワインは店頭に平均588種類が並び、最大の商品カテゴリーとなっている。米国の約5000のワイナリーは、その陳列スペースの確保にしのぎを削っている。この業界では、ロバート・モンダビィ・ワイナリーを傘下に置くコンステレーション・ブランズなど、ごく少数の大規模な持ち株会社がエンタープライズクラスのITシステムを持っている。だが、ほとんどのワイナリーは小規模な家族経営を続けており、そこでは、「情報技術」(インフォメーションテクノロジー)はゲヴュルツトラミーナ(白ワインのぶどう品種)よりも発音しにくい言葉だと思われている。
「ワイン業界は、ITの活用が比較的進んでいない業界だ」とシュウィング氏は語る。「設備投資に重点が置かれていない。製造業や金融業でも、20年前には同様の傾向が見られた。ワイン業界では、ソフトウェアパッケージ間で情報をやり取りするのが非常に難しいことが悩みの種となっているが、応急的な方法でこれらを連携させているケースが多い」
バーンズ氏は4年前にコーベルの初代CIOに就任して以来、こうした問題に取り組んできた。同社はITの大規模な刷新、レガシーシステムの置き換え、インフラの強化、IT投資を競争力向上につなげるための基盤整備を進めてきた。コーベルは長年にわたってITに投資していたが、ITの統合や管理は十分に行われていなかった。
「われわれの以前のデータセンターは基本的に、オフィスを転用したものだった」(バーンズ氏)
データセンターを新設
コーベルは新しいデータセンターを構築するにあたって、冗長無停電電源装置(UPS)を新しいものに交換し、サーバへの電力供給の効率化を目的に電力システムを改良し、冷却温度を一定に保つために新しい空調システムを導入し、環境条件を改善した。新しいデータセンターは、従来の施設よりもキャパシティが33%大きく、今後数年にわたって同社のニーズに対応できる。
「ワイン業界はまだ全体的に立ち遅れている。それでも、わたしが入社して以来、業界は大きく変わった」とバーンズ氏。「コーベルにしても、中堅規模のワイナリーだが、IT化に非常に積極的だ」
バーンズ氏は4年前、車でロシアンリバー沿いのセコイアの森を抜けて、初めてコーベルを訪れた。ワイナリーでは、ツタで覆われた19世紀のれんが造りの建物を中心に、段々に連なるぶどう畑が近くの丘まで一面に広がっていた。「車で正門から入ってその景色を眺めたとき、わたしはすっかり心を奪われて、ぜひここで働きたいと思った」と同氏は振り返る。
19世紀にボヘミア(チェコの西部、中部地方)から亡命したフランティセック(フランシス)・コーベル氏とその兄弟が、サンフランシスコで建材会社F.コーベル&ブラザーズを創業した。同社はロシアンリバー沿いの町ガーンビル(同市から車で北上すること数時間)の製材所を買収し、製材業に進出。また、農業経営にも乗り出し、シャンパンの原料となるピノノワール種のぶどうを栽培するようになった。その後間もなく、ワイン造りが同社の本業になった。
だが創業家は1954年、3代目のワイン醸造家アドルフ・ヘック氏にワイナリーを売却した。ヘック氏は、リドリングを自動化するマシンの発明者だ。リドリングは、シャンパンの2次発酵で生じたオリを取り除くために、瓶を毎日わずかに回しながら徐々に倒立させ、オリを瓶口に集める作業で、以前は手作業で行われていた。同氏の息子のゲーリー・ヘック氏が、1982年に同氏の後を継いでコーベルの社長に就任。1980年代に同社は2ケタ成長を続け、スコット・ビンヤード、バレー・オブ・ザ・ムーン・ワイナリーといった同業者を買収した。現在、コーベルは年間に130万ケース以上を販売し、約1億5000万ドルを売り上げている。(後編に続く)
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