3つの世界を制するものが市場を制する――「戦略学―立体的戦略の原理」:経営のヒントになる1冊
「値段が安く品質も高いのにどうして売れないのだろう?」――こうした戦略の不条理に陥らないための施策とは……?
科学哲学者カール・ライムント・ポパーは、科学的知識を発見する方法やその論理的構造を研究する過程で、人間は物理的肉体的な世界(世界1)のほかに、人間の心の状態の世界(世界2)、そして人間だけが持つ知性によって理解できる知識や価値やネットの世界(世界3)が実在していることを発見した。
この三次元的な世界観に対するポパーの着眼は、今日、われわれに人間の五感では測ることのできない心理的世界や知性的世界の存在を理解することの重要性を教えてくれている。周知のように、今日、ビジネスの世界では、人間の心理的世界や知識、理論、技術、権利、価値、インターネットといった人間の知性によって理解できる知性的世界を対象としたビジネスがますます重要性を増している。今や企業にとって、ポパーが展開した物理的世界、心理的世界、知性的世界からなる三次元的な世界観に基づく多元的立体的戦略が求められている時代が来ているといってもいい。
このような状況の中、より安くより品質のいいといった五感で測れる物理的世界の特徴だけを追求するような一面的経営戦略、つまりポーターの競争戦略論や資源ベース理論では、人間の心理的世界や知性的世界を無視することになる。それらの世界で大変化が起ったとき、企業は変化に適合できず、容易に淘汰(とうた)されてしまうだろう。
このような現象は1つの世界では合理的に適応しているのに、別の世界では不適合になってしまう。つまり「戦略の不条理」に陥ってしまうのである。例えば、「わが社の製品は、誰が見てもどの企業よりも価格が安く品質もいいのに、どうして売れないのか?」といった状態である。
本書は、こうした戦略の不条理を回避するために、先の3つの世界を対象とする立体的大戦略(キュービックグランドストラテジー)の必要性と現代的意義について明らかにし、新しい戦略の基本原理と実践的応用の方法について説明する。本書は、既存の一面的な経営戦略論の知識で満足している人たちに対して、新たな刺激を与えるきっかけとなるだろう。
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