ビジネスとITをつなぐ“翻訳者”
企業において「ビジネスとITの融合」が叫ばれて久しいが、実現するにあたり専門的なスキルの欠如に伴う「言葉の壁」が双方のコミュニケーションを阻んでいるという。
欧米企業と比べて日本企業はITによる生産性が低いと指摘される。アクセンチュアが2007年に発表した調査データでは、理由の一つに「ビジネスとITの乖離(かいり)」を挙げている。業務が分かるIT人材の不足や、業務部門とIT部門の意識のずれなどが主な原因という。こうした状況が長引けば、企業の基盤となる情報システムを目まぐるしく変化するビジネス環境に合わせて迅速に刷新することもままならず、競争力において日本は欧米と大きく水を開けられることにもなりかねない。ビジネスとITの溝を埋める人材の育成が急務といえる。
SAPが提唱する「ビジネスプロセスエキスパート(BPX)」は、双方を橋渡しする役割を持つ。BPXは、事業部門の業務とコアプロセスに関する深い知識やビジネスプロセスフローのモデリングに関するノウハウを持つ。とりわけ分散したシステムをサービスの集まりとして統合する技術であるSOA(サービス指向アーキテクチャ)導入の担い手として期待されている。
SAPジャパンのバイスプレジデントでビジネスプロセスプラットフォーム本部長を務める福田譲氏は「BPXの役目は難解なIT部門の言葉をビジネス部門に分かりやすく翻訳することだ」と説明する。従来であればシステム導入に際してビジネス部門の担当者と企業システムの設計・構築に携わるITアーキテクトが対話するケースが一般的だが、「互いに双方の専門知識が欠如していてコミュニケーションがとれない状態」(福田氏)だという。BPXは両者のつなぎ役となる。
構造化して本質を見極める
BPXになるために必要なスキルとは何か。SAPが提供するトレーニングでは、ビジネスプロセス管理(BPM:Business Process Management)が重視されている。BPMのガバナンスフレームワークを理解し、BPMによって企業プロセスがどう変化するかを学習する。実際のトレーニングの現場では「あらゆる物事を構造化して、課題の本質を見極める訓練が繰り返し行われている」と福田氏は話す。
SAPが2008年10月に提供を開始したBPXの認定試験「Business Process Expert Associate」において、世界に先駆けて3人の認定者を出したのがIBMビジネスコンサルティング サービス(IBCS)だ。同社と日本IBM、SAPの3社はSOA分野での支援サービスで協業している。IBCSのバリュー・デリバリー・センターでアソシエイトパートナーを務める刀根猛氏は「SOAを適用するためにはシステム構築主体の考え方から業務中心の考え方に変えなくてはいけない。その際、部門ごとに乱立するサイロ型システムを水平統合するのがBPXの役割だ」と強調する。
福田氏によると、今後のBPXには管理会計の知識や高度なITスキル、つまりCFO(最高財務責任者)やCIO(最高情報責任者)の領域もカバーする必要があるという。
「BPXに重要なのはビジネス全体への深い理解であり、戦略コンサルティングファームとして総合力のあるIBCSが最初に認定を取得したことは大きな意義がある。今後取得を目指す企業に対して効果的なアドバイスをしてくれるはずだ」(福田氏)
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