経営環境の変化に対応できないトップは埋没する:間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)
企業を取り巻くビジネス環境の急変ぶりには目を見張るものがある。昨日売れたものが明日も売れる保証などない。大企業が必ず市場競争に勝ち残るわけでもない。今、経営者の助けとなるものは何であろう?
顧客の声を直接手に入れろ
顧客の要求も厳しくなっている。プロダクトアウトでなくマーケットインだということが語られて久しいが、今はそんな単純なことでは済まない。いくつもの新製品が生まれては消えていく。理屈通り市場のニーズを調査して開発した新製品が、顧客から見向きもされない例は山ほどある。閉塞感に覆われた市場でニーズは簡単には見つからない。音楽プレイヤー「iPod」にしても映画「崖の上のポニョ」にしても、企業側からの提案によって顧客は目を覚ました。顧客のニーズにマッチしたというのは、いつも評論家の後付けだ。
そうはいっても、企業からの提案が市場を無視しては結局相手にされない。インターネットを通じて顧客情報が集まり、インターネットの掲示板サイトで製品の評判が持ち上がり、インターネット上の比較サイトで製品の価格から性能、使い勝手、品質、デザイン、機能などが比較されるなど、顧客からの情報が直接手に入る時代である。インタ−ネットを活用しない手はない。
例えばPCメーカー・Dellによるインターネット上の直接販売は、新しいビジネスモデルの典型だ。インターネットで注文すると、自分の好みでコンポーネントを組み合わせた製品が出来上がる。購入後のトラブルはインターネットや電話により、中国を拠点としたコールセンターの対応で、痒い所に手が届くほどの親切さで応えてくれる。後日、フォローアップの電話さえある。まさに顧客の要求に応えた、グローバルなビジネスモデルだ。
ITに無頓着な経営者では生き残れない
技術の進歩も目覚しい。IT技術の急速な進歩に無頓着だったり、敬遠したりするトップは、IT利用によるビジネスチャンスを逃している。たとえ製造技術やサービス技術に関心があっても、小難しいIT技術から距離を置くトップは珍しくない。
ITは、ハード、ソフト共に大変な進歩を遂げている。光ファイバーなどによる通信ネットワークの高速化、パソコンの高性能化、グリッドコンピューティング、クラウドコンピューティング、モバイル、RFID(ICタグを活用した情報通信)など、ITの活用で時空を超えることができる。加えて、パッケージソフトの登場、ASP、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)などにより安価なアプリケーションの利用が可能になっている。単なる効率化や全体最適から、資産の最大化や価値の創造へと、ソフトウェアが目指すものは高度化している。進化したITは、利用の仕方によってはいくらでも役に立つ。
以上のように、経営環境が激変する時代を生き抜くには、グローバルレベルで変化する環境や多様化する顧客に果敢に挑戦し、俊足の進歩を遂げるIT技術を巧みに活用しなければならない。それに気付き、実行に移すことのできるトップだけが生き残るのだ。
プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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