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【第3回】新興国市場を狙うグローバル戦略加速するグローバル人材戦略(4/4 ページ)

かつては低コストで労働力を提供する場に過ぎなかった新興国は、魅力的な市場に変貌するとともに、自らも競争力を高めて大きく経済成長を遂げている。キリン、ナイキ、ネスレなどの事例から新興市場攻略の糸口を探る。

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グローバリゼーションからイノベーションへ

 新興国市場の位置付けが明確になれば、次に問われるのは、何を製造、販売し、どのように戦略を実現するのかである。グローバル経営の特徴として、販売する製品やサービスをどこまでグローバル化(統合)あるいはローカル化(適応)すべきものかが争点となる。実はグローバル化とローカル化という矛盾のはざまにこそ、将来のイノベーション機会がある。バランス感覚を持った柔軟な取り組みこそがグローバル戦略の成功の鍵だ。

 グローバル戦略の流れとして、最初は海外市場参入とともに既存製品やサービスの現地提供(グローバル化)を行い、次に現地志向(ローカル化)に合わせる場合がある。例えば米Googleは、1998年の設立以来、米国でのインターネット検索事業を他国で同様に運営していた。米国で研究開発を行い、米国発のサービスを他国で利用するグローバル化が中心だった。2004年にスイスのチューリッヒ、インドのバンガロール、東京に開発拠点を開設し、ローカル化の対応を始めた。事業のグローバル化の度合いを縦軸に、ローカル化の度合いを横軸にしてポジショニングマップを描くと、スマイルカーブの動きとなる。ちなみにメールサービス「Gmail」を開始したのもこの年である。Googleにとっては、サービスのグローバル化とローカル化の実現、世界規模でのイノベーションの発信がグローバル戦略課題となる。

Google グローバル化とローカル化の実現へ
Google グローバル化とローカル化の実現へ

 ほかにも徹底したローカル化を進めつつ、高いグローバル化を目指す企業がある。Nestleは、食品とは各地域の嗜好が強く影響する製品だと位置付け、同じ製品でも異なるテイストを用いる。日本で販売したチョコレート製品「キットカット」は、大学受験生に向けて「きっと勝つ」と重ね合わせ、大きな成功を収めた。2008年9月には、同社は日本に初の研究開発拠点を設立することを発表した。日本の製品開発や品質管理に関する研究成果を世界各地の開発拠点に提供するというイノベーション発信拠点と位置付けた。今後は日本発のグローバル製品を生み出していくはずだ。

 新興国市場で生まれるイノベーションもある。スウェーデンの携帯製造会社、Nokiaは先進国と異なる製品をインドで提供する。新興国向けの携帯をインドの農村部に投入した*1。Webブラウザやインターネットメール機能付き携帯であるため、PCやインターネットのアクセスがない農村でも情報交換が可能だ。インドでは総人口の70%が農村に住んでいること、1台の携帯電話を家族で使い回すことから、農村部の住人をターゲット顧客としたのである。同社は、複数人数で利用できるよう、複数のアドレス帳および個人別の通話記録機能を備えた携帯電話も提供している。これらの携帯はサイズが大きく先進国市場ではあまり訴求力はないが、農村の人々にとっては便利で魅力的な製品になっている*2

 かつて日本の電気機器メーカーは高品質が売りであり、日本市場での成功は世界での成功を約束した。当時の日本市場は世界のショーケースだった。現在では日本市場での成功は必ずしもグローバル市場での成功を意味しない。NTTドコモやNEC、富士通など、日本国内大手がグローバル市場で苦戦している。1つのヒントとなるのは、高機能で高品質の製品が必ずしも世界のスタンダードではないことだ。液晶テレビメーカーである、米VIZIOのマーケティング担当者は、消費者が求めているのは高品質、高機能の高価格製品ではなく、OKプロダクト(OKとされる、そこそこの機能でそれに見合う価格の製品)であると喝破している。

 イノベーションとは、高機能製品だけから生まれるわけではない。新規技術の投入だけでなく、顧客のニーズを出発点にすることで、新たな市場を発見することでもイノベーションが生まれる。新興国市場を開拓することは、ともすれば自国市場で思いもよらないようなニーズの発見につながる。既存技術の単純化や異なる市場への転用、さらには簡単な組み合わせが大きな潜在需要を掘り起こすことも可能だ。新興国市場とは将来のイノベーション機会が眠る宝庫でもある。

 ここまでグローバル戦略におけるグローバル化とローカル化、およびイノベーションについて述べた。次回以降は、グローバル組織および人材について、その構造や関連性について述べたい。


*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***


プロフィール

岩下仁(いわした ひとし)

バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。

現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバリゼーションの処方箋”を執筆中。


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